冷血副社長

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「あー、早くお役御免になりたいな」 エレベーターで最上階に向かいながら、真里亜は小さく息をつく。 この1年人事部に、副社長の秘書を辞めたいという申し出が毎月のように寄せられていた。 秘書課には、女性秘書が10人、男性秘書が5人いるのだが、副社長につく秘書は1年前から女性に限定されている。 副社長本人の要望で、理由は明言されていないが、恐らく言い寄ってくる女性の前で恋人のフリをする為だろうことは、真里亜にもすぐ分かった。 現に夕べの企業懇親会でも、副社長は何度も真里亜を呼び寄せては、恋人のように紹介していた。 むしろ分からないのは、秘書を辞めたいという申し出の方だった。 副社長は、30歳のイケメン御曹司。 もちろん時期社長となる人物で、初めは秘書課でも、副社長につきたいという女性秘書が次々と手を挙げていた。 だが実際についてみると、皆、1ヶ月程で配置換えを願い出る。 つまり、副社長とはやっていけない、と。 ついに秘書課の女性全員が白旗を掲げ、それではどこか他の部署から希望者を募ろうとした真里亜に、部長が待ったをかけた。 このままでは、同じことの繰り返しになる。 どうして長続きしないのか、何が原因なのかを究明しなくては、と。 そして真里亜に、それを探って欲しいと部長は頼んできた。 人事部の私に秘書の仕事は無理ですよ!と首を振ったが、秘書としての業務は秘書課で請け負ってくれるから、ただ副社長の側近としてしばらく様子をうかがって来てくれ、と言われ、渋々引き受けたのだった。
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