豪桜(ごうおう)

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吹きすさぶ風、春一番の強風が儚い桜を豪雪のように舞わせて桜色の絨毯とチラチラと耐える桜色を飾った葉桜を作る、儚き美しさは強い力の前ではまるで塵なのだと感じる風景の中で桜並木が折れぬように強風に、耐えている、あまりの風の強さで外にいる人はいないが誰かの帽子がどこからか飛んできて豪雪のように積もる桜の花弁達をイタズラに抉っている 抉られた花弁は風に舞、まるで音楽に翻弄されながら踊る踊り子のよう、やまぬ風のメロディは踊る花弁を翻弄して自分勝手に吹きすさぶ もう音に乗ることの出来なくなった足はそんな自分勝手で荒っぽいダンスでさえ羨ましく感じてしまう 花弁を抉っていた帽子は宙に浮かび自分が主役のような顔をしてくるくると回る 全てを弄ぶこの風の中ならばままならぬ足も勝手に動いてくれようか 過去一度だけこの風のような男の、手をとったことがあるのを思い出す、 力強いメロディーに合わせたのか強風のように私を振り回した。 振り回されているのに私は何故か楽しかった。くるくると回り舞う私に儚さなどなく優しさなど感じないはずのリードが頼れる幹のようにしっかりとリズムを掴んでいる。 力強く荒っぽい中に優雅さを隠し持ったその踊りは沢山の拍手の音で私達を祝福した。見つめ合う私達の目に映った互いは今に喉元に牙を突き立てようとする獣のようだっただろう、彼は本当に強風のようで翻弄される桜の花弁は散ることしか選択しはない ごうごうと音を立てて吹きすさぶ風景を見ながら若気の至りを思い出し笑ってしまう。 あの時が一番楽しかったように思う 豪雪のように積もる桜は晴れれば綺麗な絨毯になっているだろう、 ゴウゴウという音はビュービューと言う音になり終の近さを知らせる 桜の絨毯に、タイヤを転がそうか、 すっかり桜を剥ぎ取られた木々はもう緑色に化粧替えをしている。 久しぶりに化粧でもしようか、 特に何があるわけでもない、ただ風が強かっただけの日、獣の様に若気の至りに興じた過去を思い出しただけ。 またあの頃のようにとは思わないが桜の絨毯にタイヤを転がして散歩するのも悪くないだろう、 ヒューヒューと吹いている風はもう桜を弄ぶ力もない、あの時の彼は今は何処で何をしているのだろう、私のようにタイヤに頼らなければ進めなくなっているのだろうか? いや、だいぶ力強い人だった。この年になっても元気に周りを振り回して豪快に笑っているかもしれない、踊りをするには豪快な人だった。 私はあの人を選ばなかった。獣のように食い合いそうな程に燃えたあの瞬間は今も覚えているが、私達は一緒にならない事が正解だったのだろう、私はそよ風のような人の手を取って彼は牡丹のような人の手を取っていた。それが正解 彼と共にいれば豪雪のように降り積もった桜の絨毯のように激しく命を燃やしたのだろうから
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