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「どういうこと? 清葉、お前は」
「幽霊だよ。あんまりにも秀貴がかわいそうで、神様に頼んで会いにきちゃった。私、生前すんごく良い子だったから、なんとかオッケーもらえたの」
……信じられない。
俺は清葉を失った絶望で、頭がおかしくなってしまったのか。
「これから、秀貴が胸を震わせる度に私はこの世に現れることができる。時間は五分間だけね。私が見えるのは秀貴だけだから、くれぐれも変人に思われないように!」
信じられないけれど、それでもよかった。
例え幻覚でも、病気だとしても、もう一度清葉に会って話をすることができるならなんだって構わない。
「秀貴、これからたくさんの人と関わって、いろんな経験をして、いっぱい胸を震わせるんだよ。私に会う為に。わかった?」
「……わかった」
わらにもすがる思いで、一筋の光に吸い寄せられるように彼女を見つめ頷く。
彼女はいつもの、少し背伸びをしたお姉さんのように笑った。
「よろしい!」
こうして、俺の胸を震わせる日々は始まったんだ。
休学していた大学にも通い、たくさんの友達を作って。
風邪を引いて、一人暮らしの部屋で寝込んでいた晩に、友達がレポートとコンビニ弁当を届けてくれた時も。
「遠慮すんな。ダチだろ。もっと頼れ」
人の優しさを噛みしめて、布団で涙を隠した俺に、清葉は優しく頭を撫でてくれたっけ。
「君達は、この法則を解き明かすことができると、僕は信じています。その為にはたった一つ、これからも前を向いて生きることです」
好きな教授による講義の時には、毎回隣に清葉が座っていた。
二人で顔を見合わせて微笑んで、教授に注意されたこともしばしば。
「美味い! 清葉、これすげーわ」
「食レポ下手すぎ」
美味しいものを食べて感動する為に、グルメ巡りもした。
「見て。清葉」
「うん。……すごく、良いね」
美術館で素晴らしい作品に出会った時は、いつも静かに俺の隣に寄り添ってくれて。
「清葉! 最高だったな!」
「うん」
映画もライブも花火大会も、いつだって清葉と一緒だった。
「清葉!」
「わかったから、落ち着いて」
いつも制服を着た清葉と。
彼女のおかげで生きる気力を取り戻した俺は、無事に大学を卒業し、大手企業に就職することができた。
時々女の子から声をかけられたりもしたけど、もちろん俺は清葉一筋。
誰とも付き合わず、恋愛経験なんて一切なかった。
俺は死ぬまで、清葉と生きていく。
胸を震わせる度に彼女が俺の前に現れてくれるのだから、他にはなにもいらない。
そうして天寿を全うした後は、もう一度清葉と結ばれるんだ。
そう思っていた。
「桜、綺麗ですね」
あの人に出会うまでは。
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