73人が本棚に入れています
本棚に追加
/265ページ
1-2
カタカタ……。
ダイニングテーブルには、二人分のマグカップが置いてある。さっきの珈琲が入ったものだ。救急箱と包帯もある。大した火傷はしていないに、黒崎が薬を塗ってくれている。
「黒崎さーん。こんなにしなくても大丈夫だよ……」
「俺のせいだ。病院へ行かなくてもいいのか?」
「恥ずかしいよ。痛みが取れなかったら行くから」
「今日は大学が休みだろう?親父の家で過ごせ」
「一人でも平気だよ」
「気が散漫になっている。危ない」
「仲直りしたから平気だよ~」
「すまなかった」
「こっちこそごめんね!」
「お前が謝ることじゃない。俺が悪い」
「喧嘩両成敗にしようよ~」
それでも気が済まないようだ。傍から見ると平然としているだろうが、俺には沈んでいるように見える。2年間の結婚生活での収穫だ。そう思わないとやっていられない。黒崎の頬にキスをした。これで謝るのはナシにしようと微笑み合った。
キッチンカウンターには、九条ネギの酢味噌和えの食べかけが置いてある。朝ご飯に出した物だ。我が家の定番メニューの一つだ。九条ネギの茹で方が足りないと言われたのが、今回の喧嘩のきっかけだった。季節によって柔らかさが違うし、思いきり手を抜いたことの結果だ。今朝の会話を思い出した。
(……かたいぞ)
(……うん。我慢してよ)
(……この白みそ。いつもと違うな)
(……お取り寄せが間に合わなくて)
(……届いてから作ってくれ)
(……はああああ?)
あれが一時間のことだ。現在は愛を囁きあっている。黒崎の出勤時間が近づくまで、椅子に座ってイチャついた。
喧嘩しては仲直り。二人でいるからこその顔が見えている。まるで可視光線のようだ。どこまでも続いている。これが俺と黒崎のストーリー。
最初のコメントを投稿しよう!