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<上>思わせぶりなことするな!
青天の霹靂――ではない。
突然出会ったわけでもなければ、運命の再会なんかでもない。
何なら園児の頃から知っている。小学生時代も知っている。十六歳の現在に至るまで、全部知っている。
それでも、衝撃と言えるくらいには驚いた。
なにせ、いつもふざけていて、目を糸みたいにして笑っていて、軽口ばっかり叩いている賢治郎が、神妙な面持ちで駆け寄ってきたのだから。
「……紗綾、手ぇ出して」
「え!? ちょ、なんで!?」
――帰り道だった。
定期試験まで一週間を切ったことで、部活動や生徒会活動が原則休みとなった今日。高校から駅までの道中は平時より賑やかだった。
いつもなら部活に勤しんでいる友人達との下校は何だか新鮮で、勉強しなくてはならない時分なのに、寄り道をしたい欲が高まる。
私と賢治郎を含め、八人の連れ合いでファーストフード店に立ち寄った。
いつもとは違った下校風景ではあったけれど、賢治郎はいつもと変わりなかった。ハンバーガーを食べる前だっていうのにガムを噛み始めちゃったりして、いつも通りの馬鹿な幼馴染でしかなかった。
お腹も寄り道欲も満たされた私達は、駅で別れてそれぞれの帰路につく。
私と賢治郎にとっては、高校の最寄り駅、即ち自宅の最寄り駅なので、ここからは徒歩での帰宅となる。
私はここで思案する。
一緒に、二人で帰るのかな、どうするのかな……。
そんな淡い期待感と正体不明の気まずさを醸し出す私のもとへ、改札まで友達を見送りに行っていた賢治郎が、いつになく真面目な顔で戻ってきた。
――そして、「紗綾、手ぇ出して」に話はつながるのだ。
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