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「――早く、手、出せよ」
「わ、わかったって」
私は恐る恐る手を差し出した。震えていたと思う。
私が期待した、思い描いたフローチャートはこうだ。
手を出せと言われて差し出す→手を握られる→「行こうぜ」と言われて歩き出す。要するに「手をつないで歩く」。
これが私の脳が導き出した結論だ。願望という名の演算子がいくらか話を飛躍させているかも知れないけれど。
勝手に緊張し、手が小刻みに震える。手汗もすごい気がする。
うう……この手、この汗、一度スカートで拭いたい……。
でもそんなことしたら、なんかスポーツマン的な勢いで握手しちゃいそうだよね。それにスカートで拭って満を持して差し出された手って、なんかこう、色気がないよね。
そんな私の超速回転する頭など気にも留めず、賢治郎は左手で、下から私の手を包み込む。そしてもう一方の手で私の手のひらに何かを渡した。それが何かを私が目視するより先に、私の指を優しく包むようにして、それをきゅっと握らせた。
いつもと違う、作ったような辛気臭い声音で賢治郎が発する。
「……これ、紗綾に託したぜ」
「え……?」
手と手で伝わる賢治郎の体温に、私の心臓はまるで祭り囃子のように高鳴った。
なに? なんなの、これ。
私が静止したまま困惑していると、賢治郎の手からふっと力が抜けて、私の手が解放された――と同時に、賢治郎は踵を返して走り出す。その場から逃げ出したいみたいに。
「え、ちょっと! 賢治郎、これなに!?」
ようやく動いてくれた私の口がそう発すると、賢治郎は走りながらこちらを振り返った。その顔は、先程までの神妙な面持ちではなく、いつものイタズラっぽい笑顔に戻っていた。
「見てみなー!」
なんなの、本当に。
私は首を傾げながら、ゆっくりと握らされた手のひらを開く。
賢治郎に手渡されたそれは――紙くずだった。
しかもこれって、さっき賢治郎が食べていたガムの包み紙だ。
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