<上>思わせぶりなことするな!

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「ちょっと!!! なんでゴミなんて渡すの!?」 「アハハハハハ、そいつはお前に託した! じゃあな!」 「おい、こら待て!」  賢治郎はそのまま走り去った。イタズラ成功の高笑いを響かせながら。  なんてやつだ。  一緒に帰る? 手をつなぐ? はあ?  そんな妄想、ちゃんちゃらおかしくなる。結果を見てごらん、紙くずを握らされてその場に置き去りですよ。  私は手のひらの紙くずをギュッと握りしめる。先程までとは違った震えが拳から伝わる。その震源は怒り。いや悔しさかも知れない。  思わせぶりなことするな!  二人きりになって、真面目な顔して、手を出せなんて。  期待させるようなこと、するな!  自分がどれだけ残酷なことをしているのか、賢治郎は分かっていない。昔のままだと思っているのだろう。イタズラを仕掛け、私を怒らせ、追いかけさせて……。そんな小学生時代とまるで同じだ。  でもあの頃とは違うんだよ。少なくとも私は。  当時とは決定的に違うことがあるんだ。  それは私が真剣に、賢治郎のことが好きだということ。  賢治郎は気付いていないだろう。それは私にも原因がある。  何度も好きだと言おうとしたが、言えないまま時間だけが過ぎている。  何となく一緒にいられる、その関係性が心地よすぎて。  そのくせ、好きでたまらない。  今だって、この握らされた紙くずを、ポケットにしまっている自分がいる。あいつからもらったものとして、取っておこうとしている自分がいる。  紙くずだよ。ただの。言ってみればゴミだよ。  なんで取っておく必要があるの。馬鹿みたい。  そんな自分への悔しさが、私の手を震わせていたのだと思う。  ……これはただのガムの包み紙だけどさ、もしこれに噛んだガムが包まれていたら、どうしただろう。それでもポケットにしまったのかな。いやいやそれは流石に気持ち悪いでしょ。捨てたはずだよ……タブンネ。  本当に馬鹿みたい。
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