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<中>たまらなく好きだ!
なんであんなやつのことを、好きになったのだろう。
紙くずを握らされた日の夜、私は湯船に入りながら考えていた。
ずっと友達だった。思春期に差し掛かっても、異性として意識しないで接することが出来る、稀有で気楽な存在だった。
小学生の頃は私の方が背が高かった。それがいつからか逆転し、今では十センチ以上も差をつけられている。その顔を見上げるようになった頃からだろうか。賢治郎のことを目で追うようになったのは。
いつも男子同士でふざけあっていて、笑っていて。賢治郎の周りはいつも明るい雰囲気に包まれている。私を見つけると走ってきて、さっき起きた面白い話とやらを嬉々として伝えてくる。
その行動が嬉しくて、その笑顔がたまらなく好きだ。
そう気付いてしまってからは、もう何をしていても、何をされたとしても好きだ。たとえゴミを握らされたとて――。
風呂場の熱気のせいか他の要因かわからないけれど、どうにも体が火照ってくる。私はそんな感情を押し殺したくなった。湯船にしっとりと浸かっていた濡髪を引き上げると、折り返して顔の横に持ってくる。
「卑弥呼様ー!」
という豪快な一人ボケを決めてみたが、体は熱っぽいままだった。それはそうだ、わかっている。要因は完全に賢治郎なのだから。
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