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――翌朝。
四十年物の男子の進言を受けて、私は少し前向きになっていた。
試験勉強をまるで出来ていないのは置いておいて、また今日も、賢治郎を含めた仲間達と一緒に下校出来るはずだ。
そうすれば、最終的に、私と賢治郎は二人きりになる。
そこで私は、昨日渡されたこのポケットの中の紙くずを、同じように思わせぶりな感じで賢治郎に突き返してやる。そう決めた。
男子が好意を伝えるのにイタズラを用いるならば、女子だって同じことをしてもいいはずだ。正直、今の私に出せる精一杯の勇気。告白。こんな幼稚なコミュニケーションでしか伝えられないのは、我ながら度し難い。
でも何もしないより、ずっといい。
毎日お風呂で卑弥呼様を呼び続けるよりは、意味があるはずだ。
*
学校が終わった。
友人達と、試験勉強をしただのしてないだのと会話をしながら下校する。調子を合わせつつも、その実、上の空だった。紙くずを返すだけとはいえ、愛情表現を全くしてこなかった当社比では告白なのだ。緊張して当然だった。
流石に連日ファーストフードとはならず、今日は駅前でしばし会話をするにとどまった。それでも三十分程度の後、昨日と同じように解散の流れになった。手を振りながら改札に入っていく友人達を見送った。残されたのは、ぽつんと二人だけ。
機は熟した――。
私は「あのッ、渡したいものが、あるんだけどッ……!」という言葉を、出来るだけわざとらしく、深夜アニメのちょろいヒロイン宛らに発する予定でいた。
しかし思わぬ先制攻撃を許し、面食らってしまった。
「……昨日の紙、どうした?」
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