10人が本棚に入れています
本棚に追加
「昨日の紙……って、ゴミ?」
「ゴミって。まあでも、そうか」
賢治郎は困ったような顔で笑った。
……なんてことだ。
その存在を忘れているところに、思い切り突き返して高笑いしてやろうと考えていたのに。これじゃあ計画倒れだ。
でも今日の賢治郎はなんだか大人しい。これならば、勢いに任せて突き返しても、一矢報いることが出来るかも知れない。私は意を決する。
「これ! これでしょ! あんたに渡してやろうと思って持ってきたよ!」
私はポケットから紙くずを取り出すと、それを握った拳を賢治郎の前に突き出してみせた。流石の賢治郎も驚いた様子だ。
「……それ、昨日の、紙?」
「そうだよ!」
「それは、その、俺にくれるのか、それとも……返すのか?」
「はあ? 一緒でしょ?」
「なるほど……紗綾、お前さては、読んでないな?」
「読む……?」
私はキョトンとして首を傾げた。その顔を見て、賢治郎が声を出して笑った。いつものように目を糸みたいにして。
なにがなんだか分からず、私は取り敢えず、手のひらで丸まった紙くずを指先で解いてみた。何の変哲もない、ガムの銘柄が印刷された小さな色紙だ。
「裏」
一言だけ発した賢治郎に促されるまま、プリントのない白地の方へ裏返してみる。するとそこには――。
『すきだ』
の三文字。
濃ゆいボールペンで記されていた。
え!? なにこれ!?
最初のコメントを投稿しよう!