<下>こっちの身にもなってみろ!

1/2
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

<下>こっちの身にもなってみろ!

 これって昨日の紙くずだよね?  あの冗談めかして渡されたゴミだよね?  なんで、なんでそんなものに、賢治郎の字で『すきだ』とか書いてあるわけ? 「読んだ?」 「え!? あ、うん……」 「昨日読めよ」 「いや分かるか! こんなの……」  本当になに考えてるの。  これってさ……「告白」ってことで良いんだよね?  ガムの包み紙の裏が、ラブレター的な。  ……こっちの身にもなってみろ。  そんなの、分かるわけないじゃん。 「ごめん、そうだよな、分からないよな」  賢治郎が深く息を吐いた――と思ったら、素潜りでもするみたいに、今度は大きく吸い込んだ。そして発した。 「俺、紗綾のことが好きだ!」  その言葉が耳に届いた途端、私の目からは涙が流れた。  喜び、驚き、感激? そんなものに変換されるよりも先に、勝手に反射的に溢れ出たのだから仕方がない。 「お、おい、なんで泣くんだよ!?」 「……うるさいバカ」  いやそこは「あたし、嬉しくてッ……!」でしょ。私の馬鹿。  本当に私達は、紙くずで告白だの、告白の返しが馬鹿だのと、幼稚なコミュニケーション手段しか知らない。ある意味お似合いだね。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!