支配という快感

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支配という快感

 第三高の閉校は、3年前に知らされていた。過疎地域であるうえに少子化が進んだ今、全校生徒は定員の10分の1ほどしかいない。あたしが入ってから、職員も生徒も一段と減った気がするけど、その分気楽だった。業務の対象が多いと煩わしい。そんなもの、減るに越したことはない。  今回の閉校は、同時に、同じ市内にある系列の第二高との合併でもある。理事長を盾に校長や教頭を操り、第三高を事実上支配していたあたしは、なんとしても第二高を自分のものにしたかった。人をコントロールする快感は、ある種の中毒のようなものだ。これを邪魔されようものなら、あたしは酷く不快になり、どうにも耐えられなくなる。この感覚は、子どもの頃から変わらない。農高の時など、タイマンを張ってでも、目障りな存在を潰していた。それなのに、社会に出ると思い通りにならないことばかり。どこに行っても不快感に耐えられず、すぐに辞めてしまった。そんな中、事務で入ったこの第三高は、今や、地位も学歴もある連中があたしに完全服従なのだから、最高の居心地だ。この快感を手放すわけにはいかない。松永理事長率いる肱志学園肱志第二高。第三高色に染めるのは簡単なはず。    そのための下ごしらえとして、まず、目の上の瘤である事務次長の清水を退職させることにした。清水は重度の糖尿で、意識障害をよく起こす。しばらく入院していたが、退院後は一層酷くなったようだ。事務の知識は深いし頭も切れるが、そろそろ引き際だろう。理事長に、清水へ引導を渡すようお願いして、代わりにあたしを事務員から事務主任に上げてもらうことにした。第二高に乗り込むには、ただの事務員では弱い。でも、事務「長」として責任を負う仕事はまっぴらだから、この位が丁度いい。  そうこうするうちに、第三の校長が、閉校より1年早く第二高の校長を務めることになった。第二高の校長が急遽辞めるらしい。願ってもない好機だ。あたしが校長と同時に乗り込んだら、第二高の邪魔者をありったけ排除して、第三高の職員を入れてやる準備ができる。早速理事長にお願いして、所属も第二高に変えてもらうことにした。これにてあたしは、肱志第二高校事務主任西山江利。これで閉校の残務処理ともおさらばできる。一挙両得というやつだ。
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