いなくなったもの

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いなくなったもの

 まだまだ話はこれからなのに、もうこんな時間か。    あたしが第二高に来て半年。一緒に来た校長も、第二高の全ての非常勤職員も、肱志第二高を初の甲子園出場に導いた名誉ある監督でさえも、今はいない。ざっと数えて20人程。あたしを少しでも不快にした連中は、理事長命令によって一掃した。これで、あたしが手懐けてきた第三高の職員と、いい感じに入れ替えることができる。校長は、野球部監督の解雇に反対したからその月末に切った。表向きは健康上の理由にしておいたけど。あの人が首を横に振ったのは、この時が初めてだったか。非常勤職員は、月給制から時給制に変えたら全員で抗議してきて、理事長にその恐怖を訴えたら、即行で切ってくれた。おまけに、「江利ちゃんだけが人件費削減に奮闘している。特別昇給させるように会計課長に言っておくよ」ってご褒美つき。  そういえば、最初に辞めさせた事務次長などはこの世にすらいない。少し前に、警察から学校に電話があった。「以前そちらに清水さんって男性の方、お勤めでしたよね?清水さんが通われていた歯医者、どなたかご存知ないですか?」と。独身の清水は、自宅で孤独死していたそう。糖尿でも悪化したのか、死因不明と聞いた。清水が入院中、あたしは清水の好物の菓子を持って、ほぼ毎日見舞に行った。療養中の清水は、「今は禁止されているから」と食べるのを拒んだけど、あたしが「少しくらいいいじゃないですかあ」と勧めたら、嬉しそうに頬張っていたっけ。
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