尽きない欲求

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尽きない欲求

 あたしは着々と、肱志第二高を第三高色に染めつつある。それでも、あたしを不快にすることは蛆のように次々と湧いてきて、一向に満たされない。  野球部監督の林を解雇してすっきりしたと思ったら、ここ最近、例の掲示板に書き込みが続いている。「学校の名誉に貢献した先生を解雇?」「林先生が事務主任を注意した途端に本部の連中が来て、解雇って言い渡したらしい」「肱志第二は事務主任の女が支配している」等々。誰がやっているか、大体の見当はついている。野球部保護者会の会長、窪田だ。林の解雇を撤回してくれと、何度も教頭のところに来ていた。教頭には、「決定事項です」とだけ答えるよう、きつく言い聞かせておいたけど。  掲示板の書き込みは、日に日にしつこくなってきて、試しに「あなた誰?林監督を辞めさせたことを怒ってるあの人か」と書き込んでみたら、ぴたっと止んだ。窪田と確信したあたしは、続けて、「ほらね。やっぱりね。まずは内容証明からいきましょうか。ふるえながら待っててね。K様」と書き込んだ。それ以降、窪田らしい書き込みはない。でも、あたしを不快にした以上、痛い目にあわせておかないと。それが、再発防止というもの。池野と和田にしたように、訴訟にお付き合いいただこうか。他の保護者への見せしめにもなるし。  窪田は、海沿いのシャッター街で古びた商店を営んでいる。営むといっても、ボロボロの店構えは、最早いつ営業しているのか分からない。生活に余裕は無く、子どもの学費は奨学金頼みだと聞いている。もしかしたら、この訴訟がとどめになるかもしれない。いよいよ店を畳むことになったとしたら、それもまた一興。あたしからすれば、窪田の自業自得だ。 「あなたは人の人生を食い散らかしている。このままだと第三高と同じことになるよ」って言い捨てて辞めた職員がいた。あたしは、あたしの心の欲求を満たすために、必要な成果を求めただけだ。食べ物で食欲を満たすのと何が違うのか。でも、食欲が尽きないのと同じで、あたしの心の欲求にも際限がない。これは自分でもよくわかっている。あたしの触手は、いずれ、系列の肱志幼稚園にも伸びていくし、それはその先のどこかへも…。  それでは、今日はこの辺で。  皆様へ、警告を込めて。
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