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「そういえば、お名前を聞いてなかったんですが…」 「……ああ、私は名前ないんだ。だけどまあ…エレオとでも名乗っておこうかな」 …嘘、名前はある。あるけど忘れちゃっただけ。 もう長いこと意識すらしてないし、呼ぶ人がいないから呼ばれることもまず無いからね。エレオって名前は…何となく?魔法使いっぽい名前でパッと出てきたから。 「じゃあ…エレオさんですね」 「……うん。そういえば、君の名前も聞いてなかったね」 「あ、れっレオンと言います。ランクAの冒険者です」 レオン君、か。冒険者…ギルドの雇われ人で、ランクってのは確かFから始まって最高がA、ギルドの方で試験を受けて上がっていくんだっけ。平均がCからBって聞いたことあるから、この年齢の感じでこれってことはかなりセンスがある子と見た。 あと、なんかやけに怯えてない? それで、何でこんな所にいたのか聞いてみたところ、依頼を達成して帰ってる最中に雨に降られて方向がわからなくなり、彷徨っているとこんな所についたらしい。そんな事ある? 「あ、あの!」 とか考えてたら件のレオン君がビシッ!と右手を上げて叫んだ。 「……うん?」 「えっと、あー、エレオさんは、魔法使いなんですかっ!」 …! …よく分かったね、この子。 「……魔法は、使えないことはないよ。でもどうして?」 「その、これ魔力感知装置なんですけど、ここに辿り着いたときに紫色に光りまして…紫って基本ありえないレベルの魔力を感知した時の反応なんです。それで、窓からエレオさんがでてきた時に魔力に耐えきれなかったのか爆発しちゃって…それに、壁に立派な杖も掛けられてるので、もしかしたらすごい魔法使いなんじゃないかと…」 「……すごくなんてないよ」 すごい早口になっていく彼の声を遮って私は言葉を出していた。 さっ、と意識して壁の杖から意識を外す。 ひたりと声は止まって、一瞬時も止まった気がした。 …というか魔力感知装置…そうか。今はそんな風になってるんだ。昔はもうそれはそれはデカくてもち運びには向かないようなものだったから良かったんだけど、今じゃこんな風になってるんだ。魔力を多量に宿してる魔物とかは例外として、普通魔力とかは感じ取れないから出しっぱにしてたけどそれが原因だね。悪いからある程度制御しておこう。 「……すごくなんてないよ。全然、全くね」 …別に深く言うつもりはないけれど。 多分、まだ若い彼は多分知らないんだ。昔、魔法使い…魔女といわれた者がどういう存在だったのか。 「……少しだけ話すとね。私こんな見た目だけど、もうずいぶんと長く生きてるんだ。魔力があまりにも多い者は人であれど何であれど、細胞の老化が停止、抑制されるからね。その中で色々とあってね…魔法はもうずいぶんと使ってないよ」 最後に魔法を使ったのなんていつだっけ。 多分…あの時か。確か17だったはずだから、そうなると……少なくとも1000年強は使ってないはず。あの杖だって、もうずっと壁にかけられたまま放置されてる。 と、彼は少し目を見開いて目をこっちに向けてきた。 「そうだったんですか…その、すごく失礼な頼みかもしれないんですが、俺に魔法を教えてくれませんか!」 その頼みに、私はハテナマークを浮かばせる。 「……どうして?私、もうずいぶんと魔法なんて使ってないんだよ。街の方にも魔法使いはいるでしょ?」 今の御時世、魔法使いが将来の夢になる位なんだし、という言葉は飲み込む。 が、彼は引かずにもう一回頼み込んできた。 「いえ、その…俺、魔王を倒すのを目標にしてるんです。でも俺魔法が使えなくて…」 魔王、か。そう来たかぁ… ……何でまた? 確かに名声目当てとかの人はいるって聞いたことあるけど、見た感じそんな感じじゃない。それに、話した時にしたちょっと思い詰めたような顔。 なにか事情があるのかな…? 「俺、元々いた村が魔物の襲撃で壊されちゃって。幸い早く気づけて避難ができたので人的被害はそんなに無かったんですけど、もう人が住める状態じゃなくなっちゃってこの街に来たんです。ここも悪くはないんですけど、住み慣れた村を壊されてまして…」 「……それで?」 「その…」 続きを促すと、少しだけ奥歯を噛み締めながら彼は目を少しそらして気恥ずかしそうに続けた。 「…自慢みたいになっちゃうんですけど、俺、村で一番剣の腕が良かったんです。で、こっちに来てみても変わらなくて、皆から魔王を倒せるのはお前しかいないってずっと言われてきてまして…勇者候補だとか、色々言われてるんです。そんな皆のためにも、俺は強くならなきゃいけないんです」 「……なるほどね」 …そう聞いて少し納得した。同時に、少し残念そうにも思った。 これは駄目かもな、。 「街の有名な魔法使いの人にも色々と頼んだんですけど、その…見込みが全く無いからときっぱり断られちゃって。思いつく人ほとんど全員にお願いしに行ったんですけど、全員におんなじような理由で断られちゃって…」 苦笑いするように、自嘲するように彼は言った。 …はぁ…どうしようか。 共感も納得もできるけど、正直言うと面倒くさいなぁ………断ろう、うん。多分いい人見つかるだろうし。 「……うーん…私はやっぱりそういうのは無理だね。…正直に言うとあんまり働いたりとか、こういうのをしないといけない、っていうの好きじゃないし。それに…さっきも言ったけど魔法なんてもうずっと使ってないし、今の普通の魔法と私の使った魔法は根本的に違うから」 まあ面倒なのもあるけど、後者は本当。 今の時代の魔法と、私は扱ってた魔法はそもそも種類が違う。やろうと思えば私も今の魔法も使えるんだろうけど、逆に今の人が私の魔法を使うことはできない。だから教えるのも難しい。…まあ、正直言うなら難しいだけで出来ないわけじゃないんだけど。 と、彼の顔がまた沈む。 「そう…ですか。そうですよね、すみません…」 やめて!良心が…良心が痛むから…!そんな顔しないで…! あぁーもう…! 「……………しょうがないから、二つ、条件付きで良いなら良いよ」 …渋るけど。だいぶ渋るけど。 私とて聖人君子じゃない。条件くらいつけさせてもらおう。 パッと少し明るくなった彼の顔の前に指を一本立てて言う。 「……一つ目。私は基本ここで本を読んだりして呑気に暮らしてる。でも街に行ったりとかは気が乗らないから、毎回ここに来てもらわないといけない。その時に本を持ってきてくれるとありがたいね、図書館…っていうような機関が未だあるのかはわからないけど、そういう所とかから借りてくる感じでいい。それを、一週間に一回。その都度一時間だけ、教えてあげる」 まずここは街から死ぬほど離れている。これだけでもだいぶ来る気は失せるだろうし、これなら回数をだいぶ抑えられるはず。 「な、なるほど…」 納得と捉えて指をもう一本追加する。 「……二つ目。私のこと、私に魔法を教わってることは口外しないこと」 何人か連れてこられても困るし。面倒だし。 「…なるほど」 「……三つ目、方針に口答えしないこと」 「三つあるじゃないですか!?」 しょうがないじゃない、途中で思いついたんだから。 「……まあ、私なりに君に負担はかけないように速度は合わせてやるつもりだけど、変に口答えとかされてスピードが落ちると本末転倒だから」 変に説得するのも面倒だし、下手なことして労力を割きたくないというのは心の中にしまっておく。 「ま、まあ…分かりました。…あ、借りてる本一冊持ってるんですけど、読み終わってるんで今日これでお願いできますか?」 貪欲ー… いやまあ向上心は認めよう。 「……分かった、じゃあ一日目、やろうか」 「よろしくお願いします!師匠!」 「……師匠呼びはやめてくれると助かるかも」 ガバっと立ち上がって90゜のお辞儀をするレオン君に若干驚く。…やらかした。黙って帰してればよかった。 あと師匠って程のものじゃないし、青空教室的なのだからあんまり一定以上の知り合いになりたくないというか…まあいいや。 じゃあまずは魔力から認識してもらおうか。 「こ、こう…ですか?」 「……そうそう…がんばれー」 「い、いや、キツくないですか!?」 「……いけるよ。現に今できてるんだから」 ということで今は自分の魔力を認識してもらってそれを鎧みたいに身に纏ってもらっている。魔力認知の第一段階だね。 私は横から椅子に座って見てるだけだから楽でいいや。 いやまあちゃんと物を教える立場としてやることはやってるよ? うーん、これを見た感じ……うん、失礼を承知で言うなら確かに才能らしい才能は感じられないね。全身気張りっぱなしだし、なんというか…体ガッチガチに緊張した状態で走らされてる状態みたい。 「……とりあえず自分の魔力を認識する、それが第一歩…もうちょっと体の力抜いていいと思うよ」 「ぬ、ぬぬぬぬぬ……ぬ…?」 と、次の瞬間に魔力が霧散する。 「……集中が途切れたね…初めてだし感覚に慣れないのはあると思うけど、やり方は教えたからとりあえずはそれが簡単にできるようになるまで反復練習、かな」 分からないことがあればまた聞きに来るといいよ、と付け足す。 ……本来の魔法職であれば。 魔力の制御はできないと魔法の構築がままならないからこれは必須スキルらしい。 で、大体の人は纏うくらいならすぐできるらしいんだけど…この感じを見るにちょっと時間かかりそうかな。 …正直このレベルをずっとやってくれるなら私としても楽だから非常にありがたい。 結局、その日中にはできなくて終了となった。 うーん…我ながら面倒な事を引き受けた気がする…
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