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次の日。
相変わらずの寒さではあるものの、空は雲ひとつなく、陽射しがゆっくりと町の雪を融かしつつあった。
昨日に続き今日も私は仕事が休みなので、私と息子は、再びあの野原へとやって来た。
レイは、今日もそこにいた。
私たち3人は、過ぎ去ろうとする白銀の日々を惜しむように、雪をかき集め、雪だるまを作って、その周りで雪合戦をして。
思いきり体を動かして、もうへとへとになると、僕たちは座り込んで、青い空を一緒に眺めていた。
「じゃあユキト君は、学校を卒業して、大人になって、お仕事をしているんだ」
「そうだね」
「どんな仕事?やっぱり、ロボットを造る仕事をしているの?」
レイのその言葉を聞いて、幼い頃の自分の夢を思い出した。確かに私はかつて、ロボットを造る科学者になりたいと思っていた。だがだんだんと自分はものづくりに向いていないと思うようになり、プログラミングの道に進むこととなった。
そして今の私の仕事は、AI型チャットボットの回答精度向上の研究である。しかし、レイにそれをそのまま伝えても理解できるとは思えない。
「ええと、簡単に言えば、いろんなことを覚えて、人間みたいに会話ができるロボットのようなものを造る仕事、かな?」
「そうか、すごいなあ……」
レイは、小さな子供らしからぬ感慨深げな声を漏らした。
「人間と同じようなものを造るなんて…。人間を造るなんてことは、大昔の、僕らよりずっと立派な神様がしたことと言われているんだよ?そんなことを、ユキト君はやっているの?」
そう言われて、私は慄然とした。
(僕は今、神の仕事をしている……?)
そんなつもりはない。ただ、自分で最適な回答を学習するシステムを、上からの求めに応じて作っているだけ、ただそれだけだ。人間に近いことができるだけあって、それは決して人間ではない。もちろん、AIが人類を滅ぼすとか、そういう声が聞こえなかったわけじゃない。私のような末端に属する人間が、そんな大したことに一役買うはずがない。今まで、私はずっとそう自分に言い聞かせてきたのだ。
「人間って、本当にすごいんだね。あはは、なんだか、僕、怖くなってきちゃうな。天気を操って、自分と同じくらい頭のいい立派なもの造り出して……」
「違う!人間はすごくなんかない!天気を操ってなんかなくて、むしろ無茶苦茶にして、そのせいで苦しんで、AIだって、人間を超えてあり得ない方向に導くかもしれないものを、どんどん進化させて!それなのに、人間同士の争いはいつまでも止まらなくて……!」
急に大きな声でまくし立てる私に、息子は驚き、怯えているような様子を見せたので、私はいったん深呼吸をした。下を向けば、雪融けはどんどん進み、地面の土がむき出しになっている箇所もある。もう、レイに私の声を届ける時間は限られている。
私はあらためてレイに向き合った。
「レイ、これだけは伝えたい。レイになかなか会えなくなっちゃったこと、これは僕にとってすごく悲しいことなんだ。申し訳ないんだ。僕が、いや、人間たちが望んだのは、こんな世界じゃなかったはずなんだよ」
結局私の口から放たれた言葉は、レイに言っているはずなのに、まるで自分自身への弁解のようであった。
「なあ、この冬が終わっても、もう一度、君に会えるかな」
私がそう訊ねると、レイは明らかに表情を曇らせた。
だが、それは薮蛇だった。
私は、彼との僅かな沈黙の時間を怖れたばかりに、なんて残酷で、無神経な言葉を発してしまったのだろう。私とレイが長い間会えなくなったのも、人間であるこちら側のせいだというのに、何を勝手なことを言っているんだ。
「うーん、それは僕には分からないなあ。なんだか、僕には決められないことのような気がするし……。いや、というよりも君たち人間が、これからいろんなことを決めようとしている、そうだよね? 神様は、それを見守っていくことしかないよ。君たちがこれだけの力を得たというのは、そういう意味だよ。」
それは、愛情とも、突き放しともとれる言葉だった。
やはり彼は、幼くとも神なのだ。
「あ、でも、僕は信じてるよ!もう一度、二人が僕に会いに来てくれるってことをね!」
「うん、また会おうね!」
息子が、羨ましいくらい無邪気に答えた。
「……きっと、会いに来るよ」
一方の私は、絞り出すようにそう言うのが精一杯だった。
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