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私と息子はレイと別れ、野原を後にした。
空はなおも青一色で、限りなく陽射しが降り注ぐ。
明日にはもう雪は全て融けていることだろう。
もう一度会う。
そうレイと約束したものの、自分には会う資格がないように思われた。
これまでも、これからも、世界のどこかで、
広大な森林が火事になり、精霊を焼きつくすだろう。
大昔から原住民の信仰の対象となった小さな島が、海に沈むだろう。
そして人間たちは、相手が生身の人間かどうかも分からないまま、バーチャルの世界で言い争いをするのだろう。
神の口を塞いででも模索する私たち人間の未来とは、いったい何なのだろうか。
「あ、お父さん、あれ見て!」
不意に息子が、遥か先に見える、海沿いの工場を指差した。
「あの煙突から出てるもの、何か知ってる?」
「工場の煙突から出てるもの……煙、だろ?」
「ふふふ~、違うよ」
私の答えは、さぞ息子の期待どおりだったのだろう。満足そうに笑いながら、完全否定した。
「この間の社会見学で、あの工場の人が教えてくれたんだ。あの煙突から出るのは煙じゃありません、水蒸気です。お家のお風呂と湯気と同じようものが出てるだけだから、体に悪いものじゃないですよって、そう言ってたよ」
そういえば、昔はあれより小さな煙突が何本もあって、そこからうっすら黒い煙が上がっていたものだ。
聞くところによると、私が生まれる前はもっと煙が酷く、風向きによっては窓を開放するのも辛いほどであったそうだ。
「工場から出る水を、飲んでも大丈夫なくらい綺麗にすることなんだって。僕、大人になったらあの工場で働いて、工場から出る水を飲んでも大丈夫なくらい綺麗にする研究をするんだ。それが僕たちの次の目標ですって、工場の人言ってたから!」
「そうか、じゃあこの雪も、その頃にはもっと綺麗になっているかもな」
次の目標、次の未来、か。
まあ、どんなに進化しても、人間はこれまで通り愚かなままかもしれない。けれど、それでも、「信じる」ことができる限りは、神はその愚かさを許してくれるのかもしれない。
私は歩いてきた道を振り返った。
その先にある山々は山頂までも晴れ渡り、神々しい白銀の姿を見せている。
レイ、あらためて約束する。
必ずもう一度、会いに行くよ。
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