親切心の芽生え

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 今、目の前に自殺をしようと屋上から今にも飛び降りそうな人。泣きながら死にたい言っている。彼氏に二股かけられてて捨てられた、もう終わりだ、と。  たぶん、止めてほしいんだろうな。生きていれば良い事ある、とか今がツライだけでこれから幸せになろう、とかあなたの気持ちわかるよ、とか。そういう温かい言葉が欲しいんだろうな。  自分はいろいろ人に親切にしてきた、良い事してきたって言ってる。なのに何でこんな目にあわなきゃいけないの、と叫んでる。違うか、これはまず話を聞いて欲しいパターンだ。どうしたの、と声をかけると。 「白いタンポポを摘んで写真載せた! みんなきれいだねって喜んでた!」 「一方的に花の命台無しにしたのに?」 「捨て猫がいたから誰か拾ってって情報発信した!」 「自分で動物保護団体に持って行けばいいじゃん。それ誰も拾わなかったら猫死んでるでしょ」 「車椅子の人が駅の階段で困ってたから駅員に知らせた! ちゃんと駅員が対応してくれてた!」 「まず本当に困ってるのか声かけた? たまたま階段の前で考え事してただけかもよ。あと、手伝えばいいじゃん駅員を。君が手伝ったら駅員一人は仕事に戻れて、駅員も助かったんじゃない」 「政治家の悪事拡散協力したのに!」 「それ本当に真実の情報だった? デマ情報なんて世の中腐るほどあるんだけど証拠確認した? 何の心当たりもない事広げられて一方的に退職に追い込んだだけだったらどう責任取るつもり? 名誉棄損だよ」 「……」 「ねえ、君に芽生えてるのって本当に親切心なのかな? 自己満足じゃなくて」 「……」 「そういうの、普段彼氏さんに押し付けてなかった? 嫌気がさしたんじゃないの、浮気に走ったのも」 「あ、ありがとうって……いつも言ってくれてた……」 「それ言ってる時の彼氏さんの顔、笑ってた? どうせこいつには何言っても無駄だなって思ってお礼言う事で終わらせてたって事、ぜえええええったいにない? ありえない? 自分は良い事やったって満足してろくに相手の反応見てないってことなかった?」 「……そん、なの。だって」 「ねえ、君に芽生えてるのって、本ッ当に親切心なのかな? 聞いてる限りではそうは思えないんだよね」  女は泣き崩れる。あーあ、泣かしちゃった。いや最初から泣いてたっけ。
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