本当に怖いモノ

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 隣人にさえ警戒して、町で声をかけらえるだけで不審者扱いするというのに、何でオンラインで少し話しただけの相手をいい人だと思うのだろう。それが不思議でならない。自分の事をペラペラしゃべるし、住所特定できそうなことまで教えてくれる。本人たちは全く無自覚みたいだけど。酒が入ったら歯止めが効かないのにあんなにガンガン飲むなんて狂気の沙汰だ。  身近なヒトよりどこの誰かもわからない相手と直接会って犯罪に巻き込まれる、なんて今時当たり前に聞くことなのに何で警戒しないのか。俺からしたらまったく理解できない。  自分以外の存在が一番怖いに決まっているのに。  小さく笑みがこぼれる。昔から本当にこの顔と声、しゃべり方は相手からの信用をもぎ取るのに役に立ってきた。面白いくらいにひっかかってくれる、男も女も。  左手でずっとくるくると遊んでいたバタフライナイフを折りたたむと、ポケットに入れてコートを着る。そういえば、怖いものの中にみんな「自分に危害を加える者」ってなかったな。怖くないって事か。 「じゃあ、いいよね」  あはは、と軽く笑って外を見ると、クリスマスも終わり町からある程度のイルミネーションが片づけられていた。今年は静かな年末となる。人通りも例年よりかなり少なく皆自宅で過ごしているのだろう。目撃者が少ないのは俺にとって嬉しい。  さて、どうやって遊ぼうかな? 金はまだたくさんあるからいいか。年末年始暇だね面白そうな特番ないよ、ってみんな言ってたし。トップニュースになるくらいの派手さでいってみようかな。  キッチンからナイフとフォークを何本か取り出し、あとはてきとうに飾ったら華やかになりそうなものを鞄に入れた。電源を入れるとシャンシャンとタンバリンを叩く置物、これが一番可愛いな。海外で買ったらしく人形の顔がびっくりチキンみたいで愛嬌がある。彼女の顔、これと同じにしてみようかな。  そろそろ出かけよう、と玄関で靴を履いて。一応、床に転がっているモノに声をかけた。 「じゃあね、お邪魔しました。ありがとう“ざるそば”さん」  そう言って、玄関から外に出る。今時の部屋って便利だ、オートロックで勝手に密室にしてくれるのだから。スキップしたいくらいの軽い足取りでブルーオーツに向かって歩き出した。
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