真っ直ぐに生きる

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真っ直ぐに生きる

 いつだって、真っ直ぐに生きてきた。  これでもかっていうほど、真っ直ぐに。  僕は、曲がったことが大嫌いだ。  だから、僕には〝直人〟という可もなく不可もないような名前がお似合いだ。  誰にも、壊されないように。  だって誰も、助けてくれない。  自分を守れるのは、自分しかいないのだ。  だから僕は、あくまで『真面目』に生きている。 「直人くーん!」  不自然なほど明るい声が、頭に沁みた。 「何してるのぉ?」  隣の席の一ノ瀬さんは、身を乗り出して僕の手元をのぞいた。 「…勉強」 「ふーん」  そっちが聞いてきたくせに、あまり興味がなさそうだった。  …興味がないなら、最初から構わないでくれよ。  そんな僕の願望が届くわけもなく。 「………」  彼女はなぜかじっと僕を見つめていた。  気まずい沈黙が流れる。  …これだから女子は苦手なんだ。  何を考えているのかよくわからない。 「…直人くんってさ…」  どうせ、一ノ瀬さんも僕を『真面目くん』としか見てないだろう。  …それでいい。  そうじゃなきゃダメなのだ。  でもやっぱり、指摘されると、見透かされているような気がしてならない。  今から一ノ瀬さんが言わんとしていることはわかる。  幾度となく言われてきた。 ーーーー『直人くんって、真面目だよね』。  一ノ瀬さんからこの言葉が飛んでくると、思っていた。 「直人くんってさ!めっちゃ肌綺麗だよね!」  は?  僕は予想外な言葉に声を漏らしそうになった。 「いや前から思ってたんだけどさ!直人くんって女子以上に肌綺麗だよね!どうしたらそんなに真っ白な肌になるの⁈てかもはや真珠じゃね?」 「いや、なにを…」  一ノ瀬さんは、目を輝かせて言った。 「あと直人くんまつ毛も長い!つけま?すっごい長いね!いいな〜!」  僕はぽかんと思考停止(フリーズ)した。  まさか褒められるとは…。  こんなこと、今までになかった。  僕は褒めているのか貶しているのかわからない、「真面目だね」の一言が来ると思っていた。  彼女は僕を無駄に褒めて、何が楽しいのか。  わからない。  彼女の意図が、わからない。  僕を褒めて、何になるのか。  あぁ、ほらまた。  僕はなんでも悪いように考えてしまう。  悪いのは彼女じゃない。  僕だ。  彼女はただ、僕を褒めただけだ。  僕は、ただ自分が悪者になりたくないから、他人を悪者にしてるだけだ。  やっぱり、何の見返りも求めずに人を褒めるような一ノ瀬さんは、純粋で眩しい。  …僕に手の届くような人ではないのだ。  
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