春のbpm

4/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
外はすっかり薄暗くなっていて、仄かに明かりが灯り始めた街は、帰路を急ぐ人々で溢れていた。 自分はと言うと、その人々の波に逆らうようにふらふらと街を漂う。 正直、今は真っ直ぐ家に帰りたくない。 家に帰って、自分の部屋に1人で居たら嫌でも考えてしまいそうだ。 忘れたかった。全てを。 そして、誰かに話しを聞いて欲しいとも思った。 しかし、こんなことを誰に話せばいいのか。 他の友人に?親に? 男に告白して、玉砕したと? 出来るわけない。余計に傷を深くするだけなのは目に見えているし、自分は同性が好きだとカミングアウトする気もない。 そんな勇気も度胸もない。そんなものは、今日の告白で全て使い切ってしまったと、先刻までは思っていたはずだった・・・。 ふいに目に止まった、建物と建物の間の小さな路地。 「こっちってたしか・・・」 帰路から外れて、いつの間にか繁華街近くまで歩いてきてしまっていたようだ。 大人は良いよな・・・。酒飲んで、気分良くなって、嫌なことも忘れられるんだから・・・。 飲んだこともないお酒に勝手な憧れと幻想を抱きながら、吸い込まれるように路地に足を踏み入れていた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!