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もういいでしょ。十分でしょ。
苦しいんだよ。
でも貴女は私の苦しみには気づかない。
それどころか、私が貴女を憎んでることも、嫌ってることも考えたことさえないでしょう。
母親を恨んでいることへの罪悪感にも同時に苦しんでいる私に対して、貴女は自分のことを「良い人」ときっと思ってる。
笑っちゃうよ。可哀想な人。でも幸せな人。
社会的に見ればボランティアして、他人には優しくて、良い人なのかもしれない。
でも、私は知っている。貴女の外の顔を維持するためには犠牲がいること。
近くの人間にそれがいくこと。
私から見たら貴女は偽善。
良いことをするのに酔ってるだけだよ。
それで、私には言葉のナイフを容赦なく投げるんだよ。
それなのに貴女は気が付いていない。自分のナイフに。
悪気がないことは果たして良いことなの? 悪気がないから許さないといけないの?
こんなにも傷ついてボロボロになっているのに。心には永遠に塞がらない傷ができているのに。
無理だよ。忘れるなんてできないし、許すこともできない。
何年経っても変わらない。
もうきついんだよ。
家が一番居心地悪いから、他の土地に移った。
それでも貴女は私を離さない。
夢にまで追ってくるのはやめて。夢でさえ酷いことを言うのはやめて。
もう逃げ場がないよ。
離れれば少しは変わるかも。
長く会わなければ、私にも優しくなるんじゃなんて。
私が悪いんです。
そんな愚かな希望を捨てられない私が馬鹿でした。
帰るたびにがっかりして。傷ついて。
貴女が変わるわけないのに。
「なんであなたがこんな病気に」
私が発病してから貴女は言った。憐れむふりはやめてください。
私の病気は貴女のせい。貴女は知らないし、分かろうともしないけれど。
薬の副作用で外見が変わって、昔の友だちに会いたくなくなった。新しい人間関係を作る自信もない。
母親の貴女が私を酷く言うのだから、自信のかけらさえ、踏み散らされて、粉々だよ。
それでもね、推しができて私は変わったと思ってた。自分のためにじゃなくても推しのために生きればいいやって。
私のようやく見つけた光。
なぜ壊そうとするの?
貴女の口から彼の名前を聞くと反吐が出そうになる。
私に向けられていた毒を、彼に吐かないで。
私の神聖な彼を汚すのは楽しいですか?
彼を悪く言うことで、私が傷つくのが楽しいですか?
もう、やめてよ。
もう私の世界に入ってこないでください。
貴女は血の繋がりを重視して、親子の関係は絶対壊れないとなぜか信じているようだけど、私と貴女の関係はとっくの昔に破綻してます。
私は貴女が世界で一番嫌いで憎いです。
知らないなんて笑える。
貴女が私を嫌ってるのに、私は貴女を嫌わないとでも?
そんなに私が嫌いならなんで産んだの?
「あんたのご飯をなんで作らなきゃいけないの」
何度も小さな私に言ったね。弟のご飯は作れても私のは作りたくないなら、産むなよ。
責任とりたくないなら存在させないでよ。
「あんたは失敗作」
失敗作でも心はあるから傷つきます。
聞き流せばいい。
ずっと自分に言い聞かせたけど、無理だった。
夜になると昔から蓄積された酷い言葉が私の心を蝕むの。塞がらない傷から血が滴るの。
ずっと貴女が死ねばいいと思ってた。
そんな自分が怖くて嫌いだった。罪深いと思ってた。
でも気がついた。貴女を殺しても、苦しむのは私だって。
罪悪感からもっと貴女に囚われるだけ。
どうすれば自由になれる?
苦しみから解放される?
そうだ。良い方法を見つけた。
完全に貴女を私の世界から消す方法。
さらに貴女を傷つけ、罪悪感を植えつける方法。
簡単なことだった。
私が死ねばいいんだ。
思いついた瞬間、甘美な安らぎが訪れた。
ふふ。なんで今まで考えなかったのかな。
父は好きよ。私を傷つけない。
私のことを大切に思ってくれる人たちがいるのも分かってるつもり。
こんな私を好きになってくれてありがとう。
でも好かれる理由がわからないの。
もうね、自分を保つのが難しい。
十分苦しんだよ。足掻いたよ。逃げたよ。
でも、生きてる限り無理なんだよ。
だから、私は母を殺す。
久しぶりに実家に帰った私は、貴女と二人になった。貴女の命を奪う凶器を手にして。
流石にナイフを持つ手が震える。
怖いから? それとも武者震い?
死んだらどうなるのかな。
考えることも思うこともなくなる。楽しいことも悲しいこともなくなる。でも、苦しみもなくなるんだよね。夢も見なくなる。それで十分。
「お母さんは知らないだろうけど、私、お母さんのこと大嫌い。もう私を苦しめないで。私を解放して。さよなら」
私は母の目の前でナイフを首に当てて、力を振り絞って引いた。
赤い。
ばいばい。苦しんだ私。
ばいばい。私を苦しめた母。
もう、大丈夫だよ。
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