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どんな顔をしていいかわからなくなった。 しん、と一瞬静まり返る。 余計なことを考えるな。シュークリーム、そう、シュークリームを食べよう。雑念を振り払うようにマフラーを巻き直した。 「シュークリーム、買いに行きましょう。コンビニですよね? ま、レトワールは今日は時短営業だし」 矢継ぎ早に言いながら、先に玄関で靴を履く。これ以上ここに留まっては行けない気がした。なんとなく、深みにハマりそうな気がしたからだ。 「ちょっと待ってよ」 俺が急かしたからか、結子さんは雑にコートを羽織って小走りでこちらに来る。思わず手が伸びた。襟元を綺麗に整えると結子さんの綺麗な首筋のラインが浮かび上がる。 「ふっ、相変わらず寒そう」 「長峰がモコモコすぎるのよ」 確かにそうかもだけど、やっぱり結子さんは薄着だ。風邪をひかないか心配になってしまう。髪の毛の合間から可愛らしいピアスがキラリと揺れた。雪の結晶のようなデザイン。冬のコーディネートによく似合う。 レトワールで働くときはアクセサリー禁止だから、休みの日に結子さんがこうしておしゃれをするなんてこと全然知らなかった。 今日はたくさんの結子さんを知ることができた。レトワールでは頼りになる先輩だけど、プライベートではくるくる表情を変える可愛らしい人。そんな結子さんをずっと見ていたいと思った。 日はずいぶんと傾いている。 薄暗く、街頭の明かりが頼りになってきた。 ああ、今日が終わってしまうのか。年越しデートが終わってしまう。たとえ設定だとしても、俺はとても楽しかった。そんな、一抹の寂しさがよぎる。 コツンと手が触れた。 「手、冷たっ」 「あー、すみません」 冷え性だからか、すぐに手が冷たくなる。少し触れただけなのに冷たさが伝わってしまったようだ。そういえば手袋どこにやったっけ? と思ったら「ごめん、手袋。寒かったでしょう?」と謝られた。そうか、結子さんに貸したままだったな。 「いつもこんなもんですよ。パティシエ的には手が冷たいの最高なんですけどね」 「そうなの?」 「そうなんですよ。生クリームとか扱いやすい」 と言いつつ、学生時代の嫌な思い出がチラリと頭の引き出しから顔を覗かせる。俺は手も心も冷たい、そういう人間なのだと再認識させられる感覚。 でも結子さんは違った――。 「だから長峰が作るケーキは綺麗なんだ?」 ものすごく納得したかのような顔でうんうんと頷く。いつもそうだ。結子さんの忖度がないまっすぐな感情は、少しの淀みもなくすっと心の中に入ってくる。それが俺は嬉しくてたまらない。そんなふうに褒めてくれるのは結子さんだけだ。 「ありがとうございます」 自然と頬が緩んだ。
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