プロローグ

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プロローグ

――「今年はクリスマスどうする?」 ――「私は仕事」 ――「今年も?」 ――「今年もって、あなたも仕事じゃないの? いつもそうでしょ」 ――「俺は結子が仕事だから合わせてただけだけど……。まあ、そうだな。仕事何時まで?」 ――「早番だから夕方には終わるけど」 ――「じゃあディナーでも。ちょっと話したいことがある」 ――「わかった」 話したいこと。 なんとなく、彼の声のトーンから予想ができてしまった。 彼、貴文(たかふみ)とはお付き合いがもう五年近く。私は今年三十歳で結婚適齢期を過ぎようとしている。ん、まあ適齢期の振り幅はわかんないけど。なんとなく、三十歳までにはみたいな気持ちがあった。 だから、そろそろかなって思ってた。プロポーズ、されるかな? 私からしちゃおうかな? なんて夢を描いたりもしたっけ。 だけど、たぶん違う。 きっと別れを告げられる。 薄々気づいていた。すれ違いが多いし、会ってもさほど盛り上がらない。お互い何か違うなって、感じていたんだと思う。でも気付かないフリをしていた。きっと恋人にはよくある倦怠期ってやつ。だからそのうち治るでしょって。 でも今日の電話は違ったな。 彼の声のトーンが、そう物語っていたもの。
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