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「……覚えている。でも、でも、あの時は私達は大人と子供で立場も――」
「分かっている。分かっているよ。だから生まれ変わったんだろう。今度こそ、二人で幸せになるために……」
「ジェイ……」
「まぁ、王子は荷が重すぎるから、ちょうど良かった」
「何言ってんだよ。貴族の、公爵家の令息なんだろう? また、とんでもない身分じゃないか」
「まぁ、長男ではないし、それなりに名声を得たから好きにさせてくれる。立場は利用しないと。俺と一緒に行こう、座長とは向こう十年分の売上を渡すことで話がついた」
「はい? 俺を買うって……っていうか、もう買っていたのかよ!」
「もちろん、本人が断ったら話はなかったことにって言われたよ。口説き落としてみせますって言ったけど、まさか断らないよな?」
自分だけなにも知らされていなかったので、むくりと起き上がったリッツは、ガラハットの頭をポカポカと叩いた。
いててと言いながら、嬉しそうに笑っているガラハットを見て、気が抜けてしまった。
「断らな……いけどさ、どうして会ってすぐに名乗らなかったの?」
「それは、リッツが手慣れた感じで挨拶するから、エヴァンの印象とあまりにも違って……。もしかしたら、記憶がないのかと考えて……」
「なるほど。まぁ神殿で純粋に育てられたエヴァンとは、確かに違うかもね」
「ああ、でも中身は変わらない。すぐに分かった俺のエヴァンで、俺のリッツだ」
「うん、でもまさか、ジェイと一つ違いになるとは……。ジェイが大人に成長したら、ガラハットになったってことか。こんなにデカくなるなんて、聞いてなかったよ。腕とか、俺の二つ分よりあるんじゃないか?」
筋骨隆々になったガラハットの腕を、ツンツンとつついていたら、ガラハットは小さく咳払いをして下を指差してきた。
「ここも、大人になったかもう一度、確かめてみないか?」
「……どこでそんな誘い方を覚えたんだよ。うわっ、またデカくしてるし。ちょっ、お互い童貞だったんだぞ、落ち着こう。こっちは腰がやばいって!」
「百年以上、溜まりに溜まったモノを……」
「目がこわいって!」
リッツのテントから、うわーっと声が上がったが、それはすぐに甘い声に変わった。
リッツは百年の想いをうんと思い知る一夜を過ごしたのであった。
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