208人が本棚に入れています
本棚に追加
自分のテントに誰かを呼ぶなんて、今までのリッツからしたら、絶対にありえないことだった。
しかし、ジェイの話を聞いて、ジェイによく似た男に触れられたら、心臓が壊れそうに揺れてしまった。
もう少し、幻でもいいから、この夢みたいな偶然の出会いに浸っていたい。
そう思って、自分のテントにガラハットを招き入れた。
売れっ子のリッツは一番大きなテントを使っていた。
近くに他のテントもない。
ゆったりと過ごせる環境が気に入っていたが、やはり大きな男が入ってくるとそうとも言えない。
座っている時も大きく見えたが、立ち上がるとやはり壁のように大きな男だった。
今日は非番だからか、騎士の鎧は身につけていないが、衣服の間から覗く、胸元の引き締まった筋肉に心臓がドキッとしてしまった。
「それで? 一年国の話の続き。アンタが教えてくれるんでしょう?」
「死んだよ」
「え?」
「国を取り返した男は、王になることなく、死んだ」
「嘘! な……なんで……」
ショックで眩暈がしたリッツはフラリと揺れてしまったが、ガラハットの太い腕が、リッツの体を受け止めてくれた。
ガラハットの顔が自然に近づいてきたので、リッツは思わず手で押し止めた。
「君を奪いにいくためだと言ったら?」
「は? 変な冗談? やめて……」
「やっと君をこの胸に抱いたのに、俺を受け入れてくれないのか?」
まるでジェイが話しているように重なって見えて、リッツの手が止まった。
獣のように鋭い目、日に焼けたような肌、艶のある漆黒の髪、目鼻立ちから唇の厚さまで、それらが記憶と重なってリッツの腕から力が抜けていく。
名前を呼ぼうとして口を開いたが、それは叶わなかった。
ガラハットの唇が重なってきて、すぐに舌が押し入ってきた。
生温かい感触がして、これがキスなのだとやっと遅れて気がついた。
その頃には、もっと深く、身体中貪られるような口付けに変わっていた。
「はぁ……はぁ……ぁ……」
「これも……初めて、か?」
リッツが息を吸いながらやっと頷くと、ガラハットは嬉々としたようにリッツを持ち上げて寝台に運んだ。
キスだけで、すっかり頭の中が溶けてしまったリッツは、ガラハットの顔をぼんやりと見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!