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ガラハットは自分の馬にリッツを乗せてくれる。
その優しさは十分に伝わるのだが、少し肩の荷を下ろしてあげたかった。
二人で同じ馬に乗って、町へ向けて進み出すと、リッツはガラハットの顔を見上げた。
「やっぱり、屋敷に戻ったら、俺も乗馬を習うことにする。そうすれば、忙しい時も一人で移動できるし」
「リッツ……もし転んだり落ちたりでもしたら……」
「もう、大丈夫だよ。あれは前世のことなんだから。今は今でしょう」
「リッツ……」
鬼教官と呼ばれていたガラハットが、眉尻を下げている姿を見たら、元部下たちはなんと言うだろう。
あの強烈な記憶が焼き付いて離れないのだとしたら、それが少しでも消えていくように、今の元気な自分を見せることが大事だと思った。
「俺も馬に乗ればもっと早く走れるし、遠くまで行けるよ。街道沿いを走って、海の見える町まで行こう。まだ、見たことがないだろう? ガラハットと色々なところへ行きたい」
「ああ……分かった。それなら、帰ったら特訓だ」
「やったぁ、嬉しいー!」
子供のように笑って見せると、ガラハットは安堵したように微笑んだ。
そうだ。
これでいい。
今度の人生は、二人で目一杯楽しく幸せに生きて、それが終わる時はガラハットより一秒でも長く生きたい。
リッツはそう思った。
悲しい別れを乗り越えて、再び巡り逢えたのだから。
もしまた来世があり、再び同じ世界に生まれることができたなら、何度でも……
恋に落ちて結ばれて、共に歩む道を選ぶだろう。
「そういや、前世で呼んでくれたジェイって名前は、何か意味があるのか?」
ふと思い出したようにガラハットが呟いたので、リッツはガラハットの胸に背中を預けた。
「んー神殿語でね、ジェイは、幸せを見つけるって意味。いつかこの傷ついた小さな少年が、幸せを見つけることができたらいいなって、そう呼んだんだ」
「そうか……」
ガラハットはリッツを後ろからぎゅと抱きしめて、しばらくなにも言わなかった。
そのうちに、頭の上からぽつりと温かいものが落ちてきて、リッツの頬を濡らした。
「好きだよ」
「……れも」
少しだけ震える、大きな温もりに包まれながら、リッツは目を閉じた。
見つけたよというジェイの声が聞こえた気がした。
(終)
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