百年の愛は、運命の輪で踊る

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 稼ぎ頭であることと、座長のお気に入りということもあり、今まで逃れてきたが、年齢的に春を過ぎた今、それがどこまで通用するか、覚悟を決めなくてはいけない段階であった。  だが、どうしても気が向かないのだ。    頭に浮かぶのは、小さく震える手。  それを優しく包んで、頭を撫でてあげた。  切なく胸に響く声で、エヴァンと名前を呼ばれた時の記憶が、これ以上はダメだと足を止めてきた。 「考えておく……。とにかく、まずは舞台だから」  舞台の上は照明で光り輝いて見える。  小さな鈴を両手首にはめたリッツは、息を吸い込んでから、光の海に飛び込んだ。  弦楽器のムード溢れる音楽に合わせて、リッツは舞台の上で踊る。  指先まで意識を集中させて、背をそらして、しなやかに体を動かす。  鈴の音色に合わせて、髪を靡かせて、くるりと回転すれば、客席から歓声の拍手が沸き起こった。  今夜のダンスも上手くいった。  そう思いながら、目線を客席に向けたリッツは、ある男と目が合うと、体がビリッと痺れてしまった。  体を射抜くほどの強い視線。  その向こうにあったのは、見覚えのある金色の瞳だった。  客席の中央に座っている男。  肩を組んで馬鹿騒ぎしている連中とは違い、一人で静かに飲んでいるように見える。  ノリが悪いと茶化すヤツがいないのは、彼が位の高い人物であるからだろう。  浅黒い肌に、漆黒の髪が目に入ってから離せなくなった。  彫刻のように男らしく整った顔立ちが、どことなく懐かしく感じてしまう。  なぜこんなに心が掻き乱されるのか。  動揺してリズムがズレてしまったリッツは、慌てて回転してなんとかソレをごまかした。  おかしい……  見覚えがある気がする……  でも……  そんなはずはない……  だって彼は……  ピタリと音楽が止まって、リッツの踊りも終わった。  それらしくポーズを取れば、一斉に拍手が沸き起こった。  頭を下げたリッツは、急いで舞台袖にかけていった。  心臓がバクバクと鳴って、足に力が入らない。  舞台の上で倒れてしまいそうだった。  舞台袖の椅子に座り込んだリッツは、ポタポタと汗が額から流れ落ちるのを感じながら、まさかそんなはずはないと言って頭を抱えた。  彼の名はジェイ。  本名はジェラルドだったが、呼ぶなと言われたので、ジェイと呼ぶことにした。
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