百年の愛は、運命の輪で踊る

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 前世の神官時代、エヴァンのいた国に、敗戦国の王子が戦利品として持ち帰られた。  残党勢力を制圧できなかったために、捕虜として生かしておくことになった。  何かあった時に、交渉の道具に使えると考えたのだろう。  神殿を訪れた王の軍隊が、小さな子供を足蹴にして転がしたことを今でも覚えている。  殺さない程度に生かしておけとのご命令だと言って、兵士達はニヤニヤと笑っていた。  神殿には保護がかけられていて、中にいる者は、自由に出入りすることができない。  つまり、王にとっては都合のいい大きな牢といったところなのだろう。  神殿の意見など聞くことがないくせに、後始末だけは押し付けてくる。  エヴァンはため息をつきたくなったが、地面に転がった哀れな少年を見て、仕方なく頷いた。  他の神官は関わりたくないと逃げてしまったので、エヴァンが面倒を見ることになった。  ジェラルドと名前を呼んでみると、少年は俺の名を呼ぶなとエヴァンを睨みつけてきた。  目だけはギラギラとしていたが、体は汚れていて傷だらけで、手足が折れているようにも見えた。  恨まれることは、仕方がないことだと思った。  彼にとって自分は、自国を滅ぼした敵国の人間。  特にエヴァンの国は、国王と神殿が二大勢力として、政治を執り行うとされていた。  実際は形だけで、神殿の意見など全く取り入れられることはないのだが、今それを説明したとしても信じてもらえないだろう。  エヴァンは少年をジェイと呼ぶことにした。  きっと言葉にし尽くせない辛い経験をしてきたに違いない。  せめて、ここにいる間だけでも穏やかに過ごしてほしい。  そう思って面倒を見ることにした。  ジェイは一日中、部屋の奥にうずくまり、歯を剥き出しにして威嚇し、人が近づくことを拒否した。  エヴァンは毎日話しかけて、少しずつ距離を縮めた。  近くまで行けたので、手足の治療をしようとしたが、腕を噛まれてしまった。  見習い達が慌てて引き剥がそうとしたが、エヴァンはそのままいいと言った。  痛みを感じないわけではなかったが、誰かに怒りをぶつけたいなら、その相手に自分がなろうと思った。  そんなエヴァンを見て、ジェイはしばらくすると素直に治療を受けてくれるようになった。  そして回復した次の日には、ポツリと一言、悪かったと謝ってきた。  
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