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「せ、先生。僕は……」
ノピア先生はカーボルを責めたりせず、ゆっくりと話しかけた。
「人間は弱い生き物です。
誰だって怖い時は怖いし、逃げ出したくなる事もある。私だって例外ではありません」
「先生……」
「人の心はギターの弦や、ドラムの皮の様なもの。
僅かな衝撃にも容易く震えてしまいます。
……ですがカーボル。
震えない心なんて、そんなの私は欲しくありません」
センシは背中に格納されていた翼を伸ばし、脚に絡まる蔦を引き千切って飛行する事で大地の不協和音を破り、部屋の出入口の前に降り立った。
もう逃げられない。もっともリュートは最初から逃げるつもりなどない。
「ゴンボ!クラリネ!行くぜ!」
「おう!」
三人とセンシの詠唱が始まる。
カーボルの震えが一段と酷くなる。
「人は恐怖に震え、不安に震え、孤独に震え、寂しさに悲しみに憎しみに震えます。
だけど、喜びに震え、幸せに震え、恋に愛に震え……
正義に、希望に、勇気にだって震えるのです。
ギターの弦やドラムの皮は震えやすいけれど、強靭に出来ています。
壊れないから激しく震える事が出来るのです。
私は信じていますよ。
君の心は精霊よりも澄みきっていて強靭だからこそ、誰よりも震える事が出来るのだと」
「とにかくでっかい雷!」
轟音を響かせてリュートの電撃がセンシに命中!
さすがのセンシも動きが止まった!
「今だ!カーボル、やってみせろ!」
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