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いくら将来を嘱望される優等生達であっても、いきなりの実戦で全力の魔法を使ったのだ。既に体力の限界だった。
「話は聞いていた!俺もお前を信じる!」
「カーボル、頼む!」
「カーボル!」
オペラケスタの魔法の呪文は「歌」である。
歌う事で精霊の心を震わせ、その力を借りて魔法と成す。
だがこの時、カーボルは呪文の詠唱をしてはいない。ただ、ぎゅっと拳を握って駆け出した。
センシに……ではなく、先生に向かって。
「───わああっ!」
リュート、ゴンボ、クラリネ。そして……
それぞれ違う属性の精霊と相性の良い声質を持つ仲間たちの心の震えに、カーボルの心が。
正義が、希望が、勇気が共鳴した。
その響きはあらゆる属性の精霊を呼び寄せた。
人と精霊の心の震えが、カーボルの心で一つになり激しく震える。共鳴する。
「おおっ!」
その共鳴を乗せた拳は、先生を捕らえた鉄柵を、触れただけで塵に変えてしまった。
「カーボル、お見事です!
それは聖なる拳。
紛うことなき勇者の技ですよ」
先生を解放されては仕方ない。センシは大人しく手を上げる。
「さあて、センシ君はちょっと入院してもらいましょうか……おや、みなさんどうしました?」
安心して気が抜けた小さな勇者達がパタパタと座り込む音がした。
「疲れたあ……先生、これが正解かい?」
「そうですリュート。みんなで力を合わせる事です。簡単な答えだったでしょ?」
「俺にも今の技……いつか出来るかな?」
「もちろんです、ねえカーボル……おや、疲れて眠ってしまいましたか」
勇者の寝顔の可愛らしさに思わず微笑む先生。
「だけど、良かったですね優しいリュート君。
これでカーボルも仲間に……おや、仲良くおやすみですか、やれやれ」
……うん、あー良かったあ。
そう思いながら眠りかけたクラリネの頭の中に、ぷかりと浮かんだ疑問符一つ。
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