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ACT1: 雪みたいな
雪が降った日、青色の手袋の上に乗った雪は直ぐに溶けた。どんなに綺麗な雪の結晶でも壊れやすい。綺麗だと気付く前に壊れるのは"恋"と一緒だ……漠然と、そう思う。
「ったぁ! 雪合戦で俺ばかり狙うのはどうしてだ? 俺が嫌いだってことか!? 許さねぇぞ、このヤロー」
「ばーか。避けないお前が阿呆なんだ。有り難く受け止めとけよ」
ぼすっ
顔面直撃で顔が真っ赤。
なんだよ、可愛い。気付かなきゃよかった。
雪が積もった翌日、制服が雪でびしょ濡れになるまで雪玉を投げ付けた。雪より弾ける笑顔は反則。女の子みたいにチョコレートで恋を伝える術はないのだから、雪玉に恋心を詰め込んで投げるくらいは許せよ……て思った。思うだけで言えないのに。
どうせ、あと一ヶ月もしたら卒業してバイバイ。
制服も恋なんてものも一緒くたに汚して、そういうモンだったなって振り返れる……バカでどうしようもない日のことなんか、さっさと思い出に換えるべき。
視線の先には、綺麗な雪の結晶ではなくて泥と足跡が付着した積雪。
心のどこかでは結論を出していた後悔のアオハルは、なんだか宙ぶらりん。
鉛色の空から、まだ降る?やっぱり降らない?を繰り返す雪みたいだと思った。
* * *
誰かが「明日も雪降るのかなぁ」と開けたままにした窓から、冷たい空気が入り込んでいた。
斜めに差し込む夕陽のオレンジ色が、風にそよぐカーテンに遮られながらも優しく彼の頬に当たっている。
「まだ寝てるって……嘘だろ、もう放課後なんだけど」
教室で爆睡している霧翔に声をかけてもビクともしない。だから、魔が刺した。
チュッ。
「ん、んんっ?」
少し、唇を強く当て過ぎただろうか。光に嫉妬しただなんて馬鹿げている。
「おはよう。じゃなくて下校時刻だぞ」
「……おう」
教室の机で寝癖を作れる器用な霧翔に対して、彼に恋をしたオレは不器用。唇を手の甲で軽く拭く。
雪が肩に積もる程度の、気付かれないキスしかできないのに満足していた。でも心は対局。雪が溶けるように恋が溶けたらいいのに、と思って霧翔を避ける。
卒業まであと半月。
積雪は泥と足跡で汚くなる。恋だって募らせた分、きっと汚れていくだけ。 ……胸が苦しかった。
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