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「十一ヶ月ぶりなんだよな、僕たちが会うの」
マリオスがぽろりとこぼす。
「そうだね。ねえマリオス、服にちょっと泥ついてない? とったら?」
「話そらすなよ。……とれないし」
私は柊くんを見る。マリオスの話なんかいいから、せっかく柊くんの家に来たんだ、高級なお菓子なんてだしてくれという私の心を読んでくれと柊くんに期待する。
「そうだね」
柊くんは真顔のままコントローラーを動かす。どうやらスルーされたらしい。
マリオスはため息をついた。
「あさひちゃんは僕に会いたいとか思わなかったわけ?」
「思うかー」
私はぼやく。
「マリオスがあさひちゃんに会いに来たら、大変になるしな、俺が」
柊くんはゲームしながらぼやき、私はむっとした。
「ちょっと柊くん、それどういうことよ?」
「もう今日は人の感情読むのやめよ。人の心を読む電源おとそ」
「え、そんなことできるの?」
「できるよ。お前らのこと心配するのやーめたと集中すれば人の心を読めなくなるよ。やめるのを集中しなきゃならないのがしんどいけど」
「……しんどいか」
「俺はもうゲームに集中するから、お前らのことは知らね」
柊くんが冷たくいい放つと、マリオスは突然立ち上がった。
「行かなきゃ」
マリオスは部屋を出ていく。
え……帰るの? と思ったのはどうやら私だけではないらしい。
柊くんはコントローラーを動かす手を止めた。
「あのさ、あさひちゃん」
「ん?」
「……僕はあさひちゃんを、つれて……」
マリオスは口を静かに閉ざして、突然走り去った。
「帰っちゃっ、た……」
「時間がなかったんじゃない?」
「え、急用?」
「……さあ?」
少し無言になり、わたしが口を開く。
「マリオスってさ、しつこい男のはずなんだけどなあ?」
「あさひちゃんの前ではね。大好きだから」
「そうだよね。なんで今日はあっさりしてるの?」
「そんなに気になるってことはマリオスのことが……好きなの?」
「す、好きじゃないよ」
「俺は今日も学校で嫌でも人の心を読んでしまうことがあって、今日はもう人の感情はよまないよ」
「……まあマリオスがどっか行ったし、柊くんの助けももういらない、かな」
どこかもやもやするけれど、とりあえず解決したってことにしよう、かな。
何も言えずにいると、柊くんは私にもう一つのゲームのコントローラーを差し出した。
「せっかくならゲームして、帰る?」
そっと差し出してくれたそれを、私は受けとる。
「うん。ありがと」
それから柊くんとゲームを二時間した。
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