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私はそっと立ち上がる。
一歩一歩、扉に向かって退いていく。
ねえ、マリオス。
これは、あなたが書いた手紙じゃなかったんだね。
あなたは、私を守っていたんだね。
……ずっと昔から。
私はずっと柊くんに守られていたわけじゃなかった。
ねえ、マリオス。手紙を思い出すとね、今さらになって気づくの。
彼も私のことをそう、呼ぶんだったね?
『あさひちゃん』って。
あなたのことは側にいたのに眼中になさすぎた、きっとマリオス以上に……だから……これはマリオスからの手紙、なんだね。
マリオスの手紙が届いた日。
さきほど、人生の選択肢が二つやってきた。
ひとつは指名手配中の彼と逃げられたこと。
そしてもうひとつは……
他にも選択肢はあっただろうか。
だけど今の私には選択肢は、もう……。
柊くんはそっと立ち上がる。
「怖がらなくていいよあさひちゃん。ここは建物は広く、警備も万全だ」
柊くんは微笑んだ。
そして今目の前で、柊くんは私の手をすばやくつかんだ。
「やっと……手を繋げたね」
私はその時ふと思い出した。
今日は私が一年で一番大好きな
「ハッピーバレンタインデー」
恐怖が支配する。
私はあなたのそばに、いたくない。
窓の外。
雪ははらはらと自由に舞い降りていた。
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