あなたの残り香

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「よし!箪笥の衣替え終了!!」 爽やかな秋晴れの午後。 箪笥を閉めて、絢音は一息つく。 「あとは、藤次さんの夏物のスーツ…クリーニングに出しに行かないと…」 言って、絢音は隣のウォークインクローゼットに入る。 「あった!このスーツと、こっちの紺色…」 何着かハンガーから外して抱えると、フワッと、爽やかな匂いが鼻をくすぐる。 「……ファブリーズ?」 んー?と、絢音は首を捻り、スーツに顔を埋める。 すると、ファブリーズの匂いに混じって、藤次の汗の匂いが漂う。 「ふふっ……」 大好きな人の匂いに気持ちが昂り、軽い足取りでクローゼットを出て、ベッドの上にスーツを広げる。 「…ちょっとだけ…」 言って、絢音はその内の一着を手に取り袖を通す。 「おっきいか。やっぱり…」 ブカブカのスーツを着て、ギュッと自分を抱き締めて見ると、藤次の匂いが身体を包み込む。 甘い…お日様のような、優しい匂い。 嗅いでいる内に、何だか無性に藤次に会いたくなってきて、時計を見やる。 「まだ、15時30分…か。」 藤次が帰って来るまで、まだ2時間程ある。 ボスンと、スーツの散りばめられたベッドに突っ伏して、目を閉じる。 「(絢音…)」 脳内に響く優しい声に、胸の奥がキュンと締め付けられる。 「早く、帰ってこないかな…」 呟き、藤次のスーツを着たまま、絢音は膝を抱えてうずくまる。 「藤次さん…」 ゆっくり瞼を閉じて、大好きな人の匂いを嗅ぎながら、彼の事を考えている内に、絢音はいつの間にか、深い眠りに落ちていった。 * 「ただーいまー」 夕方。帰宅した藤次が玄関を開けて家に入ると、いつも出迎えてくれる妻の姿はなく、家はしんと静まりかえっている。 「なんや…買い物でも行っとんか?」 それにしては、鍵は開いていたし、玄関に靴もある。 不思議に思いながら、着替えようと、クローゼットのある寝室に向かってみると… 「ありゃ…まあ…」 部屋に入るなり、藤次は素っ頓狂な声を上げる。 視線の先には、ベッドで自分のスーツを着て眠っている、可愛い妻。 自然と、笑みが溢れる。 ゆっくりと近づいて、ベッドに腰を下ろし、絢音の顔を覗き込む。 「可愛い眠り姫さん。起きて?」 言って、眠る絢音の唇にキスをすると、肩がピクリと動き、瞼が開く。 「藤次…さん?」 「待たせてごめんな?今、帰ったで?」 「……抱っこ。」 半分寝ぼけているのか、甘えた声でそう言うと、絢音は藤次の首に手を回して縋りついてきたので、2人はベッドの上で重なり合う。 「あかんて…離して絢音。ワシ…ムラムラしてまうやん。」 「んー…」 嫌だとばかりに首を横に振り、自分を離さない絢音に、藤次の中で理性と欲求が犇めき合う。 「絢音…ホンマに、離して?やないとワシ、襲ってまうで?」 「うん…襲って?」 「!」 急にはっきり聞こえた妻の声に瞬き顔を見ると、そこには頬を染めてはにかむ絢音。 「絢音…」 「抱いて…私、ずっと…寂しかった…」 ギュッと抱きついて涙を流すので、藤次は困ったように眉を下げる。 「泣きなや…明日から仕事、行きたなくなるやん…」 言いながら、藤次は優しく絢音を抱きすくめる。 「これからは、仕事ひと段落したらメール送るさかい、機嫌直して?」 「ホント?」 「うん。約束する。」 「嬉しい…」 微笑む絢音の唇にキスして、口腔内に舌を差し込み深く口付けながら、藤次はネクタイを解き、2人の身体はベッドに沈む。 優しい藤次の匂いに包まれながら、絢音はゆっくりと、瞼を閉じた。
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