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「ちょ、ちょっと待って」 「なんだよ」 両手を出してストップをかけた僕に、律はムッと怒った顔をした。 当然だろう。 言い出したのは僕のほうで、律はただ協力しようとしてくれてるわけだから。 クラスメイトの市川が、二ヶ月前にできた彼女がやっとキスをさせてくれたと騒いだのは今日の昼休み。 それで、キスってどんな感じなんだろう? そう思った瞬間から、そのこと以外考えられなくなってしまった。 だけど考えたわりに明確な答えは出てこなくて、全然スッキリしなかった。 唇同士を触れ合わせるくらいのことで、どうして市川はあんなにも騒いでいたのだろう。 ちなみに、僕にキスの経験はない。 だからこそ、そんな疑問を抱えてしまった僕を見るに見かねて、律は協力してくれるのだろう。 それはもちろん嬉しい。 こんなとき頼りになるのはやっぱり親友だと思う。 だけど、いざとなったらなんだか恥ずかしくなってしまったのだ。 親友なんだからいくら近付いたって平気なはずなのに、どうしてか目一杯緊張してきて息が止まりそうに思えた。 手のひらに伝わってくる律の体温は、制服のシャツ越しでもわかるほど高い。 そのシャツの向こうにある胸板も、自分のとは比べ物にならないくらいの厚さなんだとわかる。 そんな律の男らしさと比べて、生物としての自分の圧倒的な弱さみたいなものを感じてしまい、愕然としてもいた。 弱肉強食の自然界であれば、僕は間違いなく食われる側だ。 そう思ったせいもあって、余計及び腰になったのかもしれない。 なのに、律が部活後に使ったであろうボディーシートの爽やかな香りからは離れたくないような、でもずっとこの距離でいるのはちょっと怖いような、わけのわからない気持ちに困惑して待ったをかけたのだ。
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