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放課後、合唱部の練習を終えて校舎を出た僕は、校門に向かって歩きながら自転車置き場の方へ目をやった。 すると、ちょうど自転車を押した親友がやって来るのが見えて、安心する。 いつもと同じだ。 いつの間にか僕に追いついた親友と二人で、並んで歩いていた。 これもいつもと同じだった。 けどこの日の僕は、いつも以上に油断しすぎていたのかもしれない。 「キスって、どんな感じなんだろう……」 そんなことばかり考えていたせいで、うっかり口にしていたらしい。もちろん、まったくの無自覚に。 だから隣にいた親友が立ち止まったのにもすぐには気づかなかった。 だが数メートル進んだあたりでさすがに気づき、後ろを振り返る。 親友は僕のほうを見ていたらしく、すぐに目が合った。 「(りつ)?」 首を傾げて親友を呼ぶと、彼は自転車を押して歩き出し、僕の目の前で止まった。 「どうかした?」 訊ねると 「……してみる?」 律は、真面目な顔でそう言ったんだ。
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