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あれは、死に瀕していたために見た夢だったのだろうか。 穂高は、梅田と旅の支度をした出来事を思い返す。 まるで思い出のひとつのように鮮明に思い出すことができた。 だが、あまりにも現実的ではない。むしろ、夢だからこそ鮮明に思い出せるのではないかと穂高は思い直す。 しかし、脱衣所から逃げ出す寸前、無数の手に掴まれた手足には、今でも強く掴まれた感触が残っている。 ――そっちに行ってはいけないよ。 あの時、逃げ出せていなければ、今頃この世にいなかったのだろうか。 穂高はそう考えて身震いした。 ふと、風にのってどこからか線香の匂いが香って来た。 病院内で線香の匂いがするわけないのにと穂高が思った瞬間、線香の匂いに交じって一瞬、梅の香りが鼻をくすぐるのだった。 END
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