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 じろりと黒目が動いて、僅かな隙間が生じる。引かれたかと諦めかけた瞬間、視界が不明瞭になり、ガチッと歯がぶつかって、スイカの先がなくなっていた。顎と首を伝っていく果汁がぬるい。首筋にチカッと微かな刺激が走る。刺すのが下手な蚊に止まられたときのような一瞬の不快感のすぐ後に、生暖かくぬめった軟体動物のようなものが肌の上を這った。 「うひぃっ」  思わず素っ頓狂な声が出た。しかし、首筋を這う舌が止まる気配はない。垂れた果汁を追うように舌が動いて鎖骨で止まると、上瀧が顔を上げた。 「甘じょっぺえな」  低い声でぽつりと言う。見下ろす視線の鋭さに思わずスイカの欠片を唇から落としてしまった。が、胸の上で止まった。あ。とこぼした時にはスイカは上瀧に食われて、プッと脇のシンクに種が吐き捨てられた。種がシンクを打つ音がした。なにもつけていないキャミソールの上から胸が押し上げられた。布越しに乳首を口に含まれ、舌と甘噛みに扱かれて、強く吸われ、腰が浮いた。 「……んんッ……」  パイル生地の短パンのウエストから荒く大きな手が入り込み、指が分け入って、入り口を探り当てた。 「……っ」 「まださすがに濡れとらんな」  そんなはずはない。体感として、そこだけ湿度も体温も高くなっているはずだ。上瀧に視線をやると、つい今奥を探った指を口の中に入れている。そして唾液をつけた指を短パンの中へと潜り込ませて、再び入り口にあてがわれた指先が、ぐぐっと僅かに侵入してきた。 「!!……」  上瀧は自分の手の先、茉莉の両足の間に注目している。それがたまらなく恥ずかしいのに、決して不快感はなく、むしろ昂揚した。進んでいく硬質な指が根元まで差し込まれ、グチグチっと粘着質な音をたてて中で蠢いた。ゆっくり広げるようにかき混ぜてくる。なんとも不思議な感覚だった。指一本が自分の体内に入ってきて探っている。 「ちったあ濡れてきたか」  見ると、視線の鋭さに熱がこもってきた。茉莉はシンクにもたれ、若干、上瀧に下腹部を差し出すような恰好を取った。指は体液を絡ませゆっくり深く抜き差しされる。短パンの中に差し込まれた太い手首の先に視線を落とし、微笑ましい気持ちになりながらいう。 「上瀧さんの指が、私の中、行ったり来たりしてるのえっちぃね」 「ふ」  笑った? 確認しようと顔を上げると、唇が重ねられた。蠢く唇に口が開いて、舌が押し入ってくる。分厚い舌で舌を撫でられ、こねくられ、咥内をまさぐられ、臀を撫でられ、穿いていた短パンをズリ下げられた。 「んぅ!?」  指先が中から引き抜かれ、粘液を陰核に撫でつけられ、ビリッとした刺激が走る。口を塞がれ、呼吸がままならない。指が太さを増した。二本分。指は中を探り拡げていく。上も下も如何わしい水音が聞こえる。腰を支える左腕と、中を開拓していく右手。果汁でべとつく乳房と汗ばんだ胸板が擦れ合う。唇が離れて、今とばかりに大きく息を吸った。 「そこ、座れ」  上瀧が指しているのは背後の流し台だ。 「え?」  と目配せると、頷いた。少し飛んでに乗り上げる。短パンを下着ごとはぎ取られ、膝を割られ、両足を大きく拡げさせられた。 「ちょっと待ってよ!! 汚いって」 「待たれん」  マジか、と焦った時にはもう上瀧の頭が自分の両足の間を覆って、温かい舌を感じた。茉莉は後ろ手で体を支え、目をつぶった。 「んぁッ……」  思わず軽く脚を閉じ、上瀧の頭をしめつけそうになった。指で肉を左右に拡げられ、温かく濡れた舌が陰核を嬲る。 「ッ……!? あッ……」  わけのわからない強い刺激に腰が弾む。恥ずかしさと体勢のきつさと緊張で、感情のやり場に困った。思わず出た声に自ら手で口を塞いだ。 「んっ……、んぅ……。んッ……」  上瀧はカラーシャツを着たままで、せっかくの背中が見えない。口を塞ぐのをやめ、身体を支える。 「まだシャワーも浴びとらんのに、汚いやん……」  茉莉が恨めしく呟くと、上瀧が顔を上げる。 「お前もこないだ同じことしたろうが」 「なん? お返し?」 「俺もしたいようにしただけたい。嫌とや?」  顔が近づく。見つめられると、爆発しそうなくらい恥ずかしくて嬉しい。 「…………う。嫌。においとか……なんか色々気になる……」 (嬉死ぬ。恥ずか死ぬ。近い、近い。ああもうしぬ)  自らの好意の圧に耐えきれず、上瀧から目をそらす。好きな男の顔面ときたら何故こんなにも攻撃力が高いのか。 「醒めること言うな」 「だって気になるっちゃもん」  顔を合わせられない。上瀧の方をまともに見られない。 「なら、シャワー浴び行くぞ」 「うん!」  シンクから降りて上瀧の後を追う。 「うちの風呂ボロすぎてお湯の調節難しいっちゃん」 「んなとこよう住んどうな」 「えへへー。趣があってよかろ?」 「ねえよ、そんなもん」 「あるって! ぼろアパートに訳アリの男と女。いいやーん」 「ハッ。そうや」  腕に抱きつくと、上瀧が茉莉を見下ろした。覗き込むと、顔が近づいて、むちゅ、と唇がぶつかった。 「へえぇぇ?! そんなことするん!? えぇぇ!?」 「喧(やかま)しなァ、お前」  照れ隠しに喚く茉莉をよそに上瀧は涼しい顔をしている。 「だって、照れるやん」  茉莉は上瀧を見れずに、床や浴室のドアの古いサッシに視線をさ迷わせる。 「可愛かな。茉莉」 「え」  思わず上瀧を見る。ぐにっと頬をつままれた。 「俺みたいなん、なんがいいっちゃろうか。変わっとるなァ」  苦みばしった、寂しげな薄い微笑みに、突然涙が出た。 「わからん…………」 「何泣きようとや」  両方の掌で茉莉の頬を持ち上げて、親指で涙を拭う。寂しげな薄い笑みが切なくさせる。『好き』と『欲しい』だけが先走って、目の前の男の中身など、まったく見ていなかった。 「泣きたいのはお前の親やろ。変な男に捕まりやがって」  冗談なのか本気なのかわからない。笑えないのは確かだ。涙も引くほどくだらない。 「親(あいつら)なんか泣いたって別段構わん」 「そんな好かんとや」 「大嫌い。やけど、今、親(それ)関係ないし醒めること言わんで」 「関係なくないぞ。俺みたいな男に寄ってくる女はな、育ってきた環境が悪いんよ。金があるとかないとかやなくて、家族の人間関係が大体イカレとる」 「なんで、今、そんな話するん」 「せっかくお前はまともに生きてきとうとに、男(おれ)なんかで失敗すんな」 「私はまともに生きてないし、失敗かどうかは私が決めるもん。それにここまできて後に引けんやろ」 「いらん意地張るな」 「やだ。ここで突き放されても困る。上瀧さんへの好きは上瀧さんやないと終わらせられん」 「めんどくせえな」  苛ついているのか、噛みつくような口づけで茉莉の口内を侵す。茉莉は手探りで上瀧のシャツのボタンを外し、ベルトのバックルを外し、スラックスを開いた。涙を拭っていた両手がタンクトップの裾から進入し、乳首をつまんだ。少し痛いはずなのに、下腹部まで痺れた。  下着の中に両手を入れて触れた上瀧のモノは前回とは全く別物のように大きく張りつめている。
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