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「うるせぇな。おめェが可愛げ云々言うな」 「はあ? 私は可愛かろうもん!」 「そーやったな」  と、ゆるゆると腰を動かしていく。茉莉が苦しげな声を漏らす。徐々に早くなり、浅いところを行き来していたのが、少しずつ深く突いてくる。 「……痛いか?」 「うう……、でも、止められるのはヤダ……」  グイッと引き寄せられ、抱きしめられる。中を抉られるように差し込まれた。苦しかったが息を逃がして耐えた。乳首とクリトリスを弄られ、痛いのに、さっき知った絶頂感の手前の疼きが走り、感覚が迷走する。 「やだ、無理、立ってるの、むり……。でも、やめんでよ……」  と、崩れる茉莉に覆いかぶさったまま、責め立てる。 「……ちゃんと私の中でいってね」 「後悔しても知らんぞ」 「せんもん」  互いの荒い呼吸が重なる。激しくなるにつれ汗ばんでいく肌が愛しい。中の痛みもまだ残るが、クリトリスへの刺激で頭が痺れてしまった。上瀧が奥を突く。そして、さらに差し込むと、律動をとめた。張りつめていた陰茎が波打つ。ずるりと抜けていき、終わったのだと思っていたら、マットレスに連れていかれた。強引な口づけで多い被さられて、大きく広げた両足の奥へ再び挿入された。 「こう、たき、さん、まだ、いけるん?」 「やめんなって言ったのお前やろうが」  低く唸る獣のような息遣いと鋭い眼光が茉莉を捕らえる。口を噤んで、吐息だけ逃がして、男の首に抱きつき、嵐のような律動に身を任せた。 ****  うつ伏せになった上瀧の汗に濡れた腕と、仰向けの自分の肩が吸いつくようにくっついている。腹の奥に差し込むような鈍い痛みも達成感に満ちていた。静かに短い呼吸を繰り返すのを聞いていたら、愛おしいという気持ちが込み上げてきた。  静かに上下する鳳凰を視界の中に、少し前に佐々木に教えてもらった伝承を思い出す。 「ねえ、上瀧さん」 「んぁ?」 「女はね、三途の川を渡る時、初めての男(ひと)におんぶしてもらって渡るんって。やけん、上瀧さんが死んでも背中の皮剥ぐのやめとくね」 「お前の頭ん中ほんとヤバいな」 「えー。ロマンチックやろ?」 「どこがや。それにお前見た目の割に重いけん腰いわすやろうが」 「川の中やけん浮力浮力! もー! しっかりしてよ! 霊体やけん軽いって! 多分」  上瀧は鼻で笑うと起き上がり、枕元に置いた煙草を取り、くわえて火をつけた。 「でもさ、私が先に死んだらどうするっちゃろ。上瀧さんが来るまで川っぺりで待っとかなやろうか?」  茉莉も起き上がり、上瀧の後ろから抱きつく。しっとりと濡れた肌が密着して隙間を埋める。 「その心配はいらん。お前の方が若かろうが」  肩にめり込む茉莉の頭に手を置く。 「えー。わからんやん。交通事故で死ぬかもしれんし」 「まァそん時はそん時やな」 「上瀧さん他に処女奪ってない?」 「お前が初めてやって言(ゆ)うたろうが」 「そっか。どうやった? 処女は」 「クッソめんどい」 「最低すぎるやろ! なんなんその感想!」 「お前がどうやったか訊くけん」 「もっと他にないん!?」 「お前はどうやったん」 「痛い。痛すぎるし、おかしいやろ。しな〜っとしとったくせに何なん? あれ。ミドリガメからゾウガメって感じ」 「なんやそれ。俺のこといえるとや?」 「全然違うやん。てかまだ中、変な感じ」 「これでもう懲りたか」 「んーん。クセになるって感じ。またしよ。私が慣れるまでいっぱい」 「くたびれた」 「別にすぐじゃなくていいもん」 「腹も減った」 「なんかあったかな……」 「外行くか」 「やだ。閉じこもっときたい」  茉莉は上瀧の首に回した腕に少し力を入れてぎゅっとすると、立ち上がって台所にいき、冷蔵のドアを開けて、しゃがみこむ。腹部が圧迫され、どろりと体液が落ちてきた。 「うえっ!」 「何や」 「上瀧さんの精液出てきた」 「風呂入れや」 「もうちょっとじっとしとけば良かった。うわー。えぐ」  と、股の間を手のひらですくい、洗面所に走って、手を洗う。 「ねー、また中出ししてくれん?」 「後でな」 「いえーい。やったー。雌犬のお巡りさん生ハメ中出しセックス。わークソAVみたいやね!?」 「吐き気がするな」 「えっそこまで!? ロストバージン直後でテンション上がっとるんやけど!」 「他に上げ方ないんか」 「考えとくー」  と、いいながら浴室へいった。阿呆かと呟いて、テレビをつけると、デイゲームの中継がやっていた。灰皿になりそうな容器が見当たらないのでシンクに行き、磨りガラスの窓を少し開けて、煙を吐いた。水を流して火を消し、マットレスに横たわって実況を聞いた。蝉の声や車や飛行機の音も流れ込んでくる。浴室からは水音がする。長閑な騒音が眠気を誘う。いつぶりかわからないくらい穏やかに気持ちが凪いでいる。  今自分をとりまいているしがらみが全てどうでもいい気分だった。  気がづくと、室内には蛍光灯の明かりが点っていた。 「焼き飯できとーよ」  起き上がった上瀧のほうを見て、茉莉がニカッと笑う。 「ほう」  と返すと、缶ビールを二本手に取って戻ってきた。差し出された一本を受け取りプルタブを開けて、缶を軽くぶつけ合う。 「初体験に乾杯」  と茉莉がいう。上瀧は一瞬視線だけで天を仰ぐ。茉莉は、ノリの悪いオッサンめと毒づいたが、そういうところも好きだと思った。のらない振りして応えてくれるのだから優しいのだと。 「また呼び出しきたらどうするとや」 「無視する」 「はァ?」 「時間差で行くー」  茉莉の中のまだ慣れていないよそよそしさと、内側に迎え入れた実感がせめぎ合っていて、正直なところ、どう振舞っていいかわからないでいた。お腹がすいているかもしれないから、何か食べさせてあげたいと思い、ありあわせの材料で適当な焼き飯を作った。美味いものを食べてきたであろう舌に合うか不安だったが、空腹では可哀想だという気持ちが勝った。 「……おいしい?」  大きめのスプーンで一口、かぶりついたのを見つめて、訊いた。  もごもごと咀嚼する薄そうな頬の中に、自分が作ったものが入っているのは少し感動した。 「……あんま美味くねえ」 「はァ? 嘘でも美味いっていうとこやろ!?」 「ベチャッとしとる」  茉莉も自分の分を一口、口に運ぶ。確かにしっとりしていたが、味は悪くないはずだ。上瀧は黙々とたいらげた。そして、流し込むようにビールを飲んだ。 「じゃあ、次はもっと違うもん作る!」 「いや、焼き飯(コレ)でよか」 「なんで! 美味くなかったっちゃろうもん」 「好かんとは言っとらん」  と言って煙草に火をつけた。灰皿代わりになりそうな小皿を取りに行き、上瀧に背を向けたまま、自らの頬に手を当てた。素っ気ない声のくせに、効果は抜群で、胸の中で爆竹が爆ぜたようにときめいた。茉莉の中で好きが増殖する。 「じゃあ、好きなんやん……」  胸がいっぱいになってしまい、ニヤついてしまう。小皿を持っていき、灰皿にするように言った。 「もう食わんとや?」
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