大学時代の霧野凛々

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大学時代の霧野凛々

「久しぶりですね、えっと、霧野…先生。」 先生付けなんてしなくていいですし敬語じゃなくていいですよ。私にとっては先生が先生ですから。 「ありがとう。霧野さん呼びも慣れないけどね。」 そうですよね。私は本名非公開ですからね。 「卒業してからどうかしら?」 ぼちぼちって感じですね。小説は新作の構想を練っている所ですよ。 「それは楽しみだわ。在学中の思い出とかある?」 色々ありましたからねぇ。やっぱり教育実習と卒論が印象深いでしょうか。 「そうよね。じゃあまず教育実習から。どんな感じだった?」 そうですねぇ。本名で実習に行ったので生徒たちに私が霧野凛々であることはバレずに終わったのですが、母校だったので先生方の中には知っている方が多くて大変でしたね。「作家先生なんだからこれくらいの文章の解説くらい簡単に出来るでしょ?」みたいな。 「研究授業も私が見に行ったわね。上出来だったと思うけれど。」 ありがとうございます。沢山シュミレーションをしたりして大変だったんですよ。何より子供相手でも緊張してしまうあがり症なのでなにか想定外のことが起こると収拾がつかなくなってしまって。 「確かに緊張している様子ではあったけれど、収拾がつかなくなってる感じはなかったけれど?」 研究授業の時は授業計画にとても細かく書き込んでそれ通りにできたので想定外のことは起こらなかったんですよ。でも研究授業以外は時間が余ってしまったり話忘れたことがあったりとグダグダだったんですよ。担当したクラスの生徒たちに申し訳ない気持ちですね。私に授業や講演なんかは向いてなさそうです。 笑い声が上がる。 「…こほん。病気の影響は何かあったかしら?」 参加者の間でざわつきが起こる。 「…あら、公表してなかったかしら。」 そうですね、公表していないです。まぁいい機会なのでこの場で公表してしまいましょうか。私が大学四年になる直前に統合失調症を発症しました。現在も闘病中です。 ざわつきの中参加者たちは必死でメモを取っている。 「病気の影響は色々な所で出たと思うけれど、教育実習ではどうだったかしら?」 教えるうえでは特に問題はありませんでしたが、先生生徒の視線が苦しく感じました。生徒からは変に明るい先生が来てだるい、キモいとか思われていないかなとか、先生方からは作家先生がなんのために教職を、と嫌がられているのではないかと思ってしまって辛い三週間でしたね。高校生の頃を思い出して泣いたりもしました。 「あなたのことをよく知っている先生方もいたでしょうからね。高校生のときも辛い思いをしていたの?」 そうですね、辛いこともありました。同級生や部活の先輩後輩からは小説家とかウケると笑われていましたし、先生方からは得意な科目は「作家先生だから」と正当な評価をされず苦手な科目は「作家業にうつつを抜かしているからだ」と必要以上に怒られていましたね。 「それは辛かったと思うわ。得意な科目は現代文はもちろんだと思うけれど、他にもあったの?」 もちろん現代文は得意でしたよ。古典も得意でしたし世界史も得意でした。日本史は選択していないのでわからないことが多いですが。あと、私の高校は国際高校で特殊な言語を専攻する学校でしたのでその言語も得意でしたね。 「それは私が研究授業に行くまで知らなかったのよね。確かロシア語だったわよね?」 はい、ロシア語です。珍しいですよね。ロシア語は授業がスパルタで大変でしたがやれば成績を取れてましたし留学に行ったのも楽しかったです。ロシア語検定三級も取れてロシア語には満足しました。 「得意な科目が多かったのね。流石だわ。でも苦手な科目もあったの?」 英語が苦手でした。国際高校なこともあって難しい問題が多くて、三年生では赤点ギリギリだったりもしましたね。 「英語が苦手って…あなた英検準一級持ってるわよね?」 持ってますけど、リーディングが苦手なんです。ライティングは満点だったのでライティングで取ったようなものなんですよ。英語ができれば完璧なのになって皆に笑われていましたね。まぁ、準一級取れていない生徒がほとんどでしたけど。 「人一倍努力していたのにあまりその努力が認められていなかったのは可哀想だわ。そのことを思い出したりしなかったの?」 もちろん思い出しましたし今でも覚えています。だから私は教員って人達が嫌いなんです。生徒の都合がいい部分しか評価しない人達の集まり。最低だと思っています。そしてそんな人達の中に片足を突っ込んでしまったことが苦しくて仕方ないです。そういう意味でも私は教員には向いていないんですよ。 「そういった視点で教師を見れるのはあなただけだわ。教育実習のときの話は書かないの?読んでみたいわ。」 まさに次に書こうと思っている作品は教育実習の話ですよ。思い出すのは辛いですが、頑張って書こうと思っています。 おおっと歓声が上がる。 「教育実習を一言でまとめると?」 辛い三週間、それだけです。 「本当によく頑張ったわね。」
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