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「ここが領主の屋敷か」
兄鬼は身体を小さくし、今まさに領主の館に運び込まれようとしている米俵の隙間に潜みました。
ガタガタと揺れる荷車がピタリ、と止まると遠くで声が聞こえます。しかし遠すぎて断片的にしか聞こえません。
「年貢……今年…雨……」
兄鬼は考えました。
今年は自分の住む村も雨が多く、一部の稲が駄目になり例年より米の採れ高が少のうございました。よって、収める年貢も少なかったのです。暫くすると、再び荷車が動き始めました。
次に荷車が停まったのは仄暗い闇の中でした。恐らく米を蓄えておく蔵でしょう。ドサッという音と共に振動がきて、兄鬼は振り落とされないように必死に米俵にしがみつきました。程なくして扉が閉まる音がして、暗闇になります。足音が去った事を確認し、兄鬼は身体を元の大きさに戻しました。鬼は夜目が効きます。目を光らせて蔵の中を見渡しました。
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