鬼兄弟物語

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兄鬼はずっと、生きていればそれでいいと思っていました。でも、隣村の人々は生きているのにとても辛そうな顔をしていたのです。兄鬼は胸がもやもやしました。そして、領主のせいで人々があんな顔をしているのかと思うと、次第に怒りが湧いてきました。 しかし兄鬼は役人のように取り締まる事はできません。それに、これ以上何かする事で自分が住む村の領主様にも迷惑がかかってしまうのは嫌でした。しかし、どうにもこうにも怒りが収まりません。なので兄鬼は、役人が来る前に少しだけ隣村の領主を懲らしめてやろうと思ったのです。 役人が隣村に到着するであろう前の日の夜。 兄鬼と弟鬼はこっそり隣村へ向かいました。兄鬼は小さくなり弟鬼の肩に乗ります。弟鬼の歩幅と速度なら、四刻(二時間)もあれば着くでしょう。月明かりに照らされた二人は妖しく美しく輝いておりました。 「オイ、お前いつまで饅頭食ってんだ」 「兄者も食べる?」 昼間、仕事の手伝いのお礼に人々から貰った饅頭を食いながら走る弟鬼に、兄鬼が呆れながら言います。 「いらねぇ。さっさと食っちまえ。すぐ着くぞ」 「はぁい」 「あと、領主が出てきてもお前は喋るなよ」 「何で?」 「恐さが半減する」 「分かったよ兄者ぁ」 のんびり返事する声は地響きのように低く、兄鬼の鼓膜を震わせました。
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