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「後で饅頭たらふく食わしてやる」
兄鬼は弟鬼の耳元でそう囁くと、再び領主を締め付ける力が強くなります。
「ぐ………っ!」
「無駄な殺生はしたくない。年貢を、過剰に搾取したと認めるか?」
「みと、める……」
「二言は無いな」
「な…い…」
「よし、離してやれ」
兄鬼が命じると、弟鬼は手を緩め領主を地面に落としました。
「蔵から米を運び出せ。明朝、中央から役人が来る。包み隠さず全て話せ。事実を偽った時は……」
「わ、分かった!い、言う通りにするから!」
声を裏返し答えた領主は、すぐに護衛の者に蔵から米を運び出すよう指示を致しました。屋敷の前に全て米が運び出されたのを確認して、鬼兄弟は屋敷を後にしたのでございます。
「兄者ぁ〜」
「何だ」
「お腹空いたぁ~」
帰り道。
まだ夜が明けぬ薄暗い道を歩きながら弟鬼が情けない声を出します。
「チッ。家に着くまでこれで我慢しろ」
兄鬼は懐から出した饅頭を弟鬼の口に放り込みます。
「兄者ぁ~」
「何だ」
「全然足りないよぉ」
「我慢しろ。帰ったらたらふく食わしてやる」
そう言うと、俄に足並みが早くなりました。これなら夜が明けるまでに村に着く事ができましょう。
ゆらゆらした振動と少し高めの体温に眠気を誘われ、兄鬼はゆっくり目を閉じました。
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