鬼兄弟物語

4/21
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「腹が減っただろう?お食べ」 そう言って大きな握り飯を目の前に差し出します。が、相手は人間です。何か罠があるかも知れません。二人は手を出しませんでした。 「人間が恐いのか?」 困ったように男は笑います。 「(俺達)が、怖くないのか」 頭に角がある人間の姿をした兄鬼が聞きます。 「俺は鬼を初めて見るが、怖くない。大きいけど、その様子だとまだ子どもだろう?しかもお前は人間に近い(なり)をしている」 「……」 「親はどうした?」 「人間に殺された」 弱い所を見せたら、こちらが殺される。 兄鬼は気丈なふりをして淡々と答えました。 「……そうか、辛かったな。大丈夫だ、俺はそんな事はしない」 「信じられない。鬼が、憎くはないのか」 「お前達が何をした?人間から憎まれるような事は、何もしていないだろう」 「父が鬼、母が人間。俺達は、人でも鬼でもない。ゆえに人間からも鬼からも迫害された」 「生きる事の何が悪い。お前達は、ただ生きたかっただけだろう」 その言葉に、兄鬼の目に涙が浮かびました。 「そうだ、ただ俺達は生きたかっただけだ…なのに…なのに、どうして……」 「食え」 男は再び、二人に握り飯を差し出しました。 まだ躊躇う二人の手に、握り飯をギュッと持たせます。 「生きるんだろう?」 二人は頷いて、泣きながら握り飯を食らいました。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!