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「腹が減っただろう?お食べ」
そう言って大きな握り飯を目の前に差し出します。が、相手は人間です。何か罠があるかも知れません。二人は手を出しませんでした。
「人間が恐いのか?」
困ったように男は笑います。
「鬼が、怖くないのか」
頭に角がある人間の姿をした兄鬼が聞きます。
「俺は鬼を初めて見るが、怖くない。大きいけど、その様子だとまだ子どもだろう?しかもお前は人間に近い形をしている」
「……」
「親はどうした?」
「人間に殺された」
弱い所を見せたら、こちらが殺される。
兄鬼は気丈なふりをして淡々と答えました。
「……そうか、辛かったな。大丈夫だ、俺はそんな事はしない」
「信じられない。鬼が、憎くはないのか」
「お前達が何をした?人間から憎まれるような事は、何もしていないだろう」
「父が鬼、母が人間。俺達は、人でも鬼でもない。ゆえに人間からも鬼からも迫害された」
「生きる事の何が悪い。お前達は、ただ生きたかっただけだろう」
その言葉に、兄鬼の目に涙が浮かびました。
「そうだ、ただ俺達は生きたかっただけだ…なのに…なのに、どうして……」
「食え」
男は再び、二人に握り飯を差し出しました。
まだ躊躇う二人の手に、握り飯をギュッと持たせます。
「生きるんだろう?」
二人は頷いて、泣きながら握り飯を食らいました。
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