さようなら

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 『データ処理を開始します。』  アンドロイドの体は通常人の寿命よりはるかに長く持つ。だから、無限大に見える容量も長い目で見ればそうではない。生前の記憶という名のデータには少なからず今後不要なものがたくさんあるのだ。研究者たちが慌ただしく動いているのを背景に、過去のデータが順に目の前に映し出され、不要必要の判断を瞬時に行いながら処理してゆく。  赤ん坊の頃の記憶。思い出せずとも記憶は必ず脳のどこかに残っているというが、本当らしい。  木造の和を感じさせる家で駆け回る、私。寝転んでいた父親が苦笑いしている。そのそばで昼食の支度をする母親。火にかける鍋から少し甘い匂い。これは…  『肉じゃが。名の通り、動物性肉とじゃがいも、その他人参や玉ねぎ等を醤油や砂糖で甘く煮た日本の料理。古くから日本の家庭料理として好まれており…』  「ああ、思い出した。もういいよ。」  今やもうないだろう料理の説明をされても時間の無駄だから、肉じゃがとやらの歴史を説明される前にその声を止めた。  今はもうキッチンなんてないだろうな。  博物館で展示されそうなほど貴重な数百年前の映像だが、不要なデータのため削除していった。
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