もっと遠くへ

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もっと遠くへ

『東京で見る雪はこれが最後ね。と、寂しそうに君が呟く。』 「いるか」の名曲である「なごり雪」の一説が頭の中で繰り返される。  この歌は数百年もの間歌い継がれている。  雪と言うものがひらひらとはかなげに降る様子が、映像で覚えた雪のイメージとして何度も頭の中で繰り返す。  僕は今、もう何百年も雪の降らなくなったTOKYOの宇宙ステーションで火星への移住船に乗り、スクリーンに映されている、大昔の雪の降っている新宿の街を見ている。  昔の童謡から歌謡曲まで雪に関するフレーズの詰まった歌がエンドレスで流れる。  雪はこんなにも地球に住む人たちに愛されていたのだなぁと、一度も見た事の無い僕にも感慨深い思いが募るほどだ。  映像でしか見た事の無い雪。  それでも、これまでは、その雪の降った地球(ほし)に住んでいたと思う事で、何となく自分に近いもののような気がしていた。  火星に行ってしまったら、もう、二度と戻っては来られない。  そして、火星ではもう、雪の映像を流さないと政府は決めている。  旅立ち前の地球での思い出作りのためのスクリーン映像なのだ。  火星に着いたら、火星に順応しなければいけない。  いつまでも地球にとらわれていては順応が遅くなると政府は考えている。    地球の事はもう忘れてもらわなければいけない。    でも、僕の頭にはきっと残っているだろう。  雪の映像の思い出と、懐かしい昔の歌と一緒に。  僕たちの世代が火星で死んだときに、雪の思い出も一緒に失われてしまうのかもしれない。 【了】  
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