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56. 異世界4日目
「お茶会の申し込み?」
今朝も昨日と同様に、猫耳メイドのミミが望の黒髪を漉きながら貴族からの招待の手紙が離宮に続々と届いていると教えてくれた。
「はい。リョーコ様とノゾミ様同時にというものから、個別に、というものまで。それこそ山のように届いております」
「・・・山」
「はい。全てローザ様が確認しておりますが、この世界に来たばかりの御二人に自家の茶会や夜会へのお誘いをするなど、常識がないと憤っておられます」
「確かに。右も左も分かんない私達を招いてどうしたいのかしら?」
「お近づきに、という狙いがあるからでしょう」
「近づきたく無いわ。作法もわからないのに」
下心付きの貴族の接待なんて冗談じゃない。
仕事なら別だがこの世界で望がそんな事をしても給料が発生するわけではない。
「お伝えしておきますね」
ミミがにっこりとイイ笑顔を見せた。
×××
昨晩はルーカスが王弟に捕まり午前中に帰ってこれなかったせいで
『望を堪能できなかった・・・』
と言ってウジウジ拗ねたので、そのまま望の部屋にあるベッドで手を繋いで一緒に眠った。
非常に健全な睡眠だったかと言われるとちょっとだけ怪しい雰囲気ではあったが、最後まではしないから! とお願いされてお触りだけ――但し服の上から――なら、と許したら彼方此方触られ露出部分はキスされまくってしまった・・・
本人は朝方お肌ツヤッツヤで自室に戻って行った。
お陰様で望は唇がちょっとだけ腫れぼったい気がするが、ミミは何も言わなかった・・・バレてる気もするが。
「行ってくる」
「うん」
と、まあ望の額にキスを落として今日も新婚夫婦のような挨拶をして王城へ向かうルーカスを見送った。
なんで馬で行くんだ? と思ったが、転移魔法で入城すると門番が困るらしい。
出入りの数が合わなくなるからだと説明されたが、門? あのデカいやつよね? 何処に門番がいたのだろうと首を傾げた。
下をくぐる時に上から逐一チェックされていると言われ、思わずへぇ~と声が出た。
ただの門と云うより建物だと思ったのはまんざら間違いではなかった訳だ。
×××
ロビーで彼を見送って振り返るとカインが仁王立ちで後ろにいたのでギョッとした。
「い、いつの間に?!」
「おはようさんノゾミ。いま来たとこだよ。ま~ぁ、まるで小侯爵と新婚夫婦だなぁ」
呆れ顔で片眉を上げていたが、美少年がやると妙に色気があるのでちょっと挙動不審になった望である。
「リョーコの授業のピッチを上げんとお前さんに追いつかねえから今日からスパルタ指導だよ」
肩を竦めた姿が、まるで絵画だ。
「はぁ~、涼子ちゃんの気持ちが分からなくもないわね・・・」
「何のことだ?」
「美少年は毒にも薬にもなるって話よ」
「・・・?」
思い切り怪訝な顔をされてしまった。
多分カインも健一と同族で鏡は見ない人種だろうな~と望は苦笑いをした・・・
「リビングに一緒に行っていいか? ノゾミと違ってリョーコは朝が苦手らしくてまだ多分寝てるだろうからな」
部屋の主がせめて片方だけでもいないと応接間でもあるリビングで待つことは出来ないだろう? と言われ、望は申し出を了承した。
×××
「カインさん、涼子ちゃんとはどうするんですか?」
階段を上がりながら横を歩く生きた天使のような横顔を眺める。
「ウ~ン、嫌いじゃないぜ。ただアイツは異世界人な上に人族だから、俺達妖精族が番になったら苦労するかもって思うとなぁ」
「不都合が?」
「アンタらは年相応の姿に変化するだろ? 俺達はあまり変化しないんだ。20歳くらいの見た目で止まっちまう。だから容姿で相手がおかしくなっちまう事があるんだ。俺の先祖にも人を迎えた男がいたが、妻が結局耐えられなくなって自死を選んだ」
「え」
「だからよほどのことがないと、俺達は人族とは番にはならないんだよ」
涼子の願いは、なかなかハードルが高そうだ。
それに比べたら自分と健一は・・・
――あの彫刻みたいな顔に私が慣れちゃえばどうってことないもんね・・・ヨシ!
と。
ハードルは低そうだと考えて謎の気合をいれている望をカインが不思議そうに眺めていた。
×××
リビングに着くと、涼子はコールドショルダーが特徴的なハイネックのニットと、デニム地のクロップドパンツという格好で朝食を食べていた。
やっぱり彼女はファッションモデルのようにカッコいい。
「あれ、涼子ちゃん早起きだね?」
「お、起きてんじゃんリョーコ。偉いぞ」
「へへへ。今日から朝練だからね。気合を入れて、起きました!!」
朝練・・・そうか部活と思えば起きれるのね~と納得した。
「あ。そういやローザさんがさっき来てたよ? 望さんに会いたいって」
「? 朝早くから何かしら」
「わかんないけど、困った顔してた」
「「・・・」」
カインを思わず振り返ったが肩を竦められた。
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