101. ずっと貴方が好きでした

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101. ずっと貴方が好きでした

 隣国の王女とルーカスの婚姻に関するニセ王印騒ぎは、トランジア王国入りした隣国リンデルの王女の計画だった。  自分の好きな侯爵家子息が魔女との婚姻を結ぶのを阻止したかったと自白した。  彼女は自国に送られてきていたトランジア国王の親書を父王の部屋からコッソリ盗み出し、ニセの王印を密かに職人に作成させて入国後に魔法便――つまり郵便配達――で送ったらしい。  隣国から送ったのでは侯爵家に届く前にローザの呪い(まじない)で阻止されてしまうからである。  国王の王印が押されている様なものが普通の郵便で届くはずがないのだが、二重包装だった為離宮に届くまで気付かれる事もなく侯爵家の使用人が運んできた。  普通の郵便物に紛れローザ夫人の執務机に届けられ、彼女が封を切ると王印を押した手紙が現れた。  離宮は厳戒態勢を敷いており、許可なく人は訪れることができない為、夫人は陛下が転送魔法を使った物だと思い込んだのである。  様々な偶然が重なって神がかり的に起こった現象としか言いようがない。  激昂したローザ夫人の絶縁状が王宮に届いた為、国内の内乱騒ぎまでもうひと押しという事態を引き起こし、内戦問題にまで発展する手前で、王女付きの侍女が気が付き慌てて会議のために訪れていた自国の王に進言することで事なきを得たのである。  件の王女がその後どうなったのかは望は知らないが、リンデル王国からトランジア王国に莫大な賠償金が支払われた事は周知の事実となった。  お陰でトランジアの王家だけでなく、フォルテリア侯爵家とついでに望の懐も潤った。  その後、何やら上位貴族の代替わりが大流行し昔からの重鎮やら大臣やらが次々と辞職していき、有能な文官が欲しいからと何故か王太子自らが直々に望をスカウトしにやってきた。 「一生俺に仕えてくれ」  という、プロポーズ紛いの言葉に対して 「嫌です。短期パートでお願いします」  と、望から短期ならと即時了解を得たレナート王太子。  面白がってついて来ていたフィンレー王子がしょっぱい顔で 「見込み違いだった・・・」  と何故か呟いていた。  ローザ夫人の冷たーい視線とルーカスの殺意を含んだ視線を背中に受けても平気な王太子はホクホク顔で帰っていった・・・ ×××  「やっと結婚式に漕ぎ着けた」  控室に現れた花婿のルーカス(健一)はいつもの騎士服ではなく真っ白な儀礼用の騎士服を纏っており、いつもの何倍も顔面偏差値が爆上がりで眩しいほどだ。思わず目を背けそうになったが何とか持ち堪えたが、代償として望の顔が真っ赤になった。 「望、綺麗だ。ほんとに綺麗だよ」  彼の目尻に涙が浮かぶが、望だって同じ様に浮かんでいるのは周りのメイド達もよく分かっており、望に代わってメイド達がオイオイと泣き出した・・・筆頭はミミとルル。  お陰で花婿と花嫁が冷静になって涙が引っ込んだのは幸いだろう。化粧直しも大変なのだから・・・ ×××    侯爵家の広大な敷地内にあるチャペルで鐘が鳴り響く。  レッド・カーペットが敷き詰められた真っ直ぐな道を望はルーカス(健一)にエスコートされて進む。  行き着いた先にはこの世界で最初に会った白い髭の神官長だ。相変わらずサンタクロースのように愉しそうに微笑んでいる。  周りにはこの世界で出逢った人々、涼子やカイン副神官、王太子レナート、フィンレー第2王子、ノワール第3王子、国王陛下と王妃様、フォルテリア侯爵夫妻に男女の双子の兄妹と、錚々たるメンバーが並んでいる。  ミミ達メイド軍団が、赤白の埴輪隊と一緒に大きな姿見を支えているが、その中に映るのは、元の世界にいる翠と勇である。  母は黒留袖、義父はモーニングをきちんと着ていて何故か勇が号泣しハンカチで顔を拭っていて、母が慰めている・・・声が出なくて良かったと思わず胸を撫で下ろす望である。  神官長の前まで進み、何やら理解不能のお祈りが女神像に捧げられた。 ――あれ? 羽根の生えた女神様って・・・天人王にソックリなのでは?  横に立つルーカス(健一)の顔を見上げると微笑まれ頷かれたので、ああそうか知ってたのかと何となく理解した。 「夫、ルーカス・カワシマ、そして妻、ノゾミ・カワシマ。その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くす ことを誓いますか?」  何処かで聞いたことのある様な宣言文を、神官長がこちらを向いて息継ぎ無しで一気に喋る。 「「はい誓います!」」  花婿と花嫁の声が見事に揃った。 「それでは誓いのキスを」  互いに祭壇前で向き合い、ルーカス(健一)が望のベールをそっと捲り、お互いの唇がゆっくりゆっくり重なった。 「これにてこの婚姻が成立した事を女神が認めます」  神官長の声が小さな礼拝堂に大きく響き、その瞬間拍手が湧き上がった。 「ずっとずっと大好きだったわ」 「うん。俺もだ」 「「これからも宜しく」」  そう言いながらお互いに、相手の背に腕を回して、微笑み合って。  望とルーカス(健一)はもう一度幸せで温かなキスをした―― 了ーーーー 『ずっと貴方が好きでした~死んだと思ったのに再会しました?! 異世界で・・・!~』 2024.2.11.sun.  by.haru ―hazuki.mikado.―
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