人生最後の悪あがき

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人生最後の悪あがき

 高校生の時、俺はとにかくやる気ってもんが無くてさ。周りが皆、受験勉強に邁進する中で、浪人するか就職するかの二択しか無い俺は、大人しくしておきゃいいのにお前とつるんで、馬鹿な事ばっかりやってた。  あの日は今日ほどでは無いけれど、それなりに雪の降る成人式で、近所の市民体育館には新成人の先輩方が続々と集まってた。  その中にはヤンキーみたいなやんちゃしてる奴らもいてさ、乗り付けた車にでかでかと「人生最後の悪あがき」だなんて書いて、気合入れまくった格好して成人式に出てんの。  あの位の年齢になると自分がどんな人生を過ごすのか、朧気ながらもわかってくるから、それに抵抗したかったんだろう。なんて、したり顔で分析してみせたっけ。  あの頃の俺は、根拠も無いのに何にでもなれる気がして、辛気くさい落書きをするヤンキー先輩のこと、ダッセェなって見下してた。  笑っちまうよな、将来ニートのひきこもりになるなんて、これっぽっちも考えやしなかったお気楽な俺の事も。ハタチそこそこで最後の悪あがきだなんて思ってるヤンキーの事も。  ひたむきに努力すれば何にだってなれたかも知れないし、二十歳なんてまだまだこれからだ。  そんな光景を横目に、俺とお前は雪の中ひたすら歩いて暇つぶし。 お前も志望校には到底受からない成績しか残せなくて、自棄になって俺の馬鹿に付き合ってた。本当、どうしようもない二人だった。  いつもの通学路が雪化粧で真っ白で、何か特別な事が起こる予感がした。それは自分たちのどうしようもなさを直視したくなくて、雪化粧の施された幻想的な風景に、何かを見出したかっただけかも知れない。  待っていたって奇跡なんて起こらない……そんなことはわかっていたつもりだった。それでも俺達は、何かが迎えに来てくれるのを待ってた。町中を覆いつくす雪の白さを、奇跡のはじまりの色だと信じたかった。  そんな地に足のついていない状態だったからかな、普段だったら立ち寄りもしない、「ヴェネチア公園」なんかに立ち寄ったのは。  その名の通り、イタリアのヴェネチアの雰囲気を意識して建設されたと言われるその公園には、一般的な公園にある、ブランコやすべり台のような遊具は一切無くて。赤いレンガの壁だの裸の女性の彫刻だのが、設置してある場所だった。 どこらへんがどうヴェネチアなのか、真面目に世界史の授業を受けて無かった俺にはさっぱりだったけど、公園の中央にある豪奢な作りの噴水は、一目見て気に入ったよ。 噴水を囲むようにして雪に埋もれた花壇があって、雪解けの季節に来たらどんなに幻想的な光景が見れるんだろうと思ったけれど、男二人でぐだぐだ駄弁りあうような場所じゃなかったな。  教室に居場所が無いから外へ出たというのに、公園ですらお呼びでないと被害妄想に陥りながら周囲を見回して――噴水の裏側に、“あの人”を見つけた。
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